「蓮奈さまぁ! あかね、天才・不二周助に勝ったよお!」
 小さな「妹」が飛びついてきたので、蓮奈は思わずあかねの頭を抱え寄せて撫でてやった。ほんの少しの時間、離れていただけなのに、再会できて涙が出そうなほど嬉しい気持ちだった。
「うっそ、マジかよ、弦乃? もじゃ子、ほんとにフジコちゃんを潰しちゃったの?」
 文とジャネットが驚愕している。弦乃は泣き出しそうな顔で地団駄踏んでいた。
「いくらなんだって、そんなわけないでしょう! あの子ザルがあんまりむきになるから不二さんもキレてしまわれて、それを手塚会長が『大人気がないぞ、不二。お前のモットーはレディファーストだろう』と諭してくださったから、手加減してくださったんですのよ! ああもう、なんて恥ずかしい!」
「そんなこと言ってるけど、弦乃だって手塚先輩相手にめちゃくちゃむきになってたじゃん。たかだか学園祭の余興に、あんな熱くなってどーすんのよ」
 雅実がにやにや笑いながら言い、弦乃は「やかましいわっ!」と怒鳴って雅実とつかみ合いを始めた。比呂子がそれを見てまた金切り声を上げ始め、精華が小声で毒づいた。
「あのガリ勉娘が一番恥ずかしいわ…ごめんなさい、大石くん」
「いえいえ、ああいう彼女もなかなかチャーミングです」
 大石は紳士的に答えたが、微妙に青ざめながら胃の辺りを押さえている。  蓮奈を伴って現われた乾を見て、不二と手塚は揃って(グッジョブ!)と言いたそうな目配せを送ったが、乾は肩をすくめて苦笑してみせ、あかねに向かって優しく告げた。
「切原さん、また、蓮奈と一緒に遊びに来てね。俺はもうすぐ転校するんだけど、『スーパー6』はいつでもあなたがたを歓迎するよ」
「あ……うん、また来るね」
 あかねは事情がよく飲み込めないまま、しかし、どうやら心配の必要がなくなったらしいことを感じ取って、こくりとうなずいた。蓮奈は白薔薇の花をポケットに差して言った。
「貞治、また、手紙を書くわ」
「待っていていいのかい?」
「ええ、今度は、ROT26で書きます」
 乾は感動の面持ちになった。そこへ、桃城たちが寿司桶をかついで乱入してきた。
「これから河村先輩と空手部有志が、腕を振るって皆さんに御馳走させていただくッス!」
「やったあ、ラッキー☆ さあ食うぞ食うぞ〜!」
「文ったら、もう散々食べたくせに…」
 そんなわけで青春学園学園祭では、まだまだどんちゃん騒ぎが続くのであった。


※ROT13とは、英語で使われる置換え式暗号の一種で、アルファベットを13個ずらす(Rotate by 13)という意味です。HELLOはURYYBというように、綴りを13個後ろの文字にずらします。ですから、ROT26というと…わかりますよね!