「きみも、聖リリアンヌの生徒…かな? ここには、小学部もあったかしら…」
「あ、あたしは、高校生だよーだ! なんなのよぅ、さっきから自己紹介もしないでいきなり、ぺらぺらと! 蓮奈さまにシツレイだぞぉ!」
 あかねは爪先立って、綺麗な顔の不二をにらみつけた。そうして蓮奈の腕をぎゅっとつかむと、
「蓮奈さまっ、こんなヒトたちほっといて早くいこっ!」
と、ぷりぷりしながら催促した。
「あかねったら。貴方こそ、いきなりぶつかっておいて不二君に失礼よ。お謝りなさい」
「えーっ?」
「貴方は知らないようだけど、この不二周助君は青春学園男子硬式庭球部の誇るテニスの王子様なのよ。それから、この人は…」
 蓮奈はほんの少し逡巡したが、すぐに言葉を続けた。
「この人は、乾貞治君といって、私の幼馴染なの。貞治、この子は私の『ロザリオの姉妹』の切原あかねさん。不二君、彼女も、テニス部ですの」
「そうなの! ということはきみが聖リリアンヌの1年生エースだね。僕の妹の裕未が言ってたよ。きみってなかなか強いんだって、もじゃ子ちゃん?」
「も、もじゃじゃないもんっ!」といきり立ったあかねは、「……あっ、そっか、聖ルドの不二裕未、あいつのアニキかっ、おまえ!」と不二を指差して叫び、蓮奈に「だから、失礼よ」と止められた。
「それじゃあ君が、『白百合のつぼみ』さんというわけだね。初めまして、よろしく」
 乾は眼鏡の真ん中を指で上げながら、あかねのことを興味深そうにまじまじと見て微笑んだ。こちらはあまりにも背が高いので、あかねは見上げるのに精一杯でにらみつけるどころでなく、ぷうと頬を膨らませた。
「切原さん、よかったらぜひ、蓮奈と一緒に遊びに来て欲しいな。待ってるよ」
「柳さん、会長の幸村さんにもよろしく。じゃあね、もじゃ姫ちゃん」
 ふたりが立ち去った後もあかねは大いに機嫌を損ね続け、蓮奈は困り果てた様子で仕方なく、受け取ってしまった野百合会宛ての封筒を幸村精華に届けた。



「青学『スーパー6』ね。生徒会長、手塚国光を筆頭に3年生の6人が、あそこの学校を仕切っているのよ。彼らの力で青学はちかごろ、大分存在感を増しているわ」
 聖リリアンヌの「紅百合さま」こと幸村精華は、青学の校章の描かれた封筒を開けながらすでに心得えた顔で言った。
「手塚君は全国制覇を成し遂げたテニス部のキャプテンで、不二君が彼のダブルスのパートナーですわね」
 他校の動向に詳しい風紀委員長、柳生比呂子も眼鏡を光らせて指摘する。
「それに、成績学年トップでディベートクラブプレジデントの大石君に、人気絶頂のダンス部のリーダー菊丸君、空手部主将で老舗割烹の御曹子の河村君、そして、『青学の頭脳』と呼ばれる科学部部長の乾君。彼らが『スーパー6』と呼ばれるグループですのよ。大石君とはわたくし、父が同じ大学の教員同士ですから、多少存じあげておりますわ」
「あの『手塚ゾーン』で有名な…」と、精華の「妹」真田弦乃も感嘆した。女子部ながら副部長を務めているだけあって、テニスのことなら他校の話題でもついていけるようだ。