一方その頃。
「わぁい、蓮奈さまぁ、にあう?」
 あかねは「姉」の蓮奈に選んでもらったブラを試着してご満悦であった。赤と白のチェックのコットン地のところどころに小さなデイジーの花が縫いつけてあり、大変健康的で可愛らしいデザインである。
「とても似合っていてよ。あかねは是非、それになさい。ただし、部活がない時にするのよ。弦乃さんはこんなのは、テニス部内ではお許しにならないでしょうからね」
 あかねはそれを聞くと「ぷう〜」と口をとがらせて、
「つまんなぁい。せっかく、みんなに自慢しようと思ったのに」
と、むくれている。
「でも、精華に説得されたら弦乃さんも、少し華やかなものを認めようという気になるかもしれないわね。あの人はなにせ、お姉様が大好きですから」
「あかねだって、おねえさま大好きだもん! はいこれ、あかねが蓮奈さまに選んであげたの、してみて!」
「有難う、嬉しいわ」
 あかねが差し出したベージュのブラは、白・ピンク・チョコレートの三色のリボンに彩られ、中央にさくらんぼの形の小さな銀の飾りがついていて、なかなか洒落たものであった。
「素敵ね」
「アイスクリームみたいで、おいしそうなの」
 蓮奈がブラの肩紐を調節しながらつけようとしていると、あかねは頬を真っ赤にしながら、熱を帯びた憧れの視線を「姉」の胸元に注いだ。
「蓮奈さまのおっぱい、ふくふくしてて、いいなあ…」
「貴女のも、いまに育つでしょうから、心配しなくていいのよ」
 そう言われるとあかねは、もじもじと自分の幼い膨らみを押さえてみてから、じっと蓮奈を見上げた。
「……さわりたいよう、蓮奈さまの」
「まあ、赤ちゃんみたいではなくて、お嬢さん」
「だってだって、さわってみたいんだもん」
 小さな「妹」があまりにご執心なので、蓮奈は苦笑して許してやった。そろそろと手を伸ばして、柔肌を包むと、あかねは「はぁあ…」と感極まったようなため息をついた。
「ぷるんぷるんして、すてき…」
「いやだわ、あかねったら」
 夢見心地のような顔でいつまでも触っているので、蓮奈もいくらか落ち着かなくなり、涼やかな目元を次第に赤らめた。可愛い妹のためなら、一肌も二肌も脱ごうという気だけは十分ある蓮奈だが、脱いだ末にこんな甘え方をされようとは思ってもみなかったのである。
「いいなあ、蓮奈さまのおっぱいをむにむにできる人が、うらやましい〜」
 すっかり鼻息を荒くしたあかねは、いささか気のふれたような様子で蓮奈の美乳を撫でさすりながら訴えはじめた。
「やだやだっ、やっぱりやだ! あかね、蓮奈さまのおっぱいをしらない男の人がぷにぷにするなんて、そんなのイヤ!」
「大丈夫よ、そんな男の人はまだ当分出現しない予定だから。あん、そんなに、揉まないで」
「そんなだったら、あかねがぱふぱふしたいの!」
「ぱ、ぱふぱふって…」
「蓮奈さまは、誰にもあげないんだから! あかねのおねえさまなんだからぁ!」
「あかね、わかったから、わかったからおよしなさい、よせっていうのにこの子は!」
 目を血走らせた小動物に猪突猛進の勢いで襲いかかられ、蓮奈は必死でこの訳の解らない状況を自分なりに分析しようと試みるのであったが、最後には貞操の危機を覚えたらしく相当気合の入ったリアルファイトがおっ始まってしまっていた。



「蓮奈、プエラリア・ミリフィカって、効くのかしら?」
 翌週、精華がサプリメントの通販カタログをめくりながら憂鬱そうに友人に尋ねると、脛に青あざをこしらえた蓮奈も、何もかも分かっている様子で顔を曇らせた。
「即効性はないと思うわ…」
そんなこんなで、聖リリアンヌ女学院では生徒会長公認でガーターベルトの大流行が始まってしまい、「姫百合のつぼみ」こと仁王雅実がファッションリーダーとして祭り上げられる始末となった。そればかりか、文とジャネットが立ち上げた「サンバ同好会」が艶女を目指す100名以上の会員を集め、コスチュームの検討を始めたので、風紀委員長柳生比呂子の額の青筋はまだまだ消えそうになかった。
 また、硬式庭球部ではそれまで仲の悪かった副部長の真田弦乃と1年生エースの切原あかねが、急に仲良く話しこむ姿が見られるようになったが、その熱のこもった会話の内容が「豊胸」についてであることを知る者はなかった…。