「さあ、弦乃、貴女もどれか気に入ったのを見つけて試着するのよ」
 紅百合様に連れて来られた下着の店は、甘いピンク一色でコーディネイトされたまさに女の園、ラブリイな香りの漂う空間であった。そこに陳列された、百花繚乱の庭園のごときブラジャーやショーツの群れの前で、真田弦乃はただただ困惑するばかりだった。
「そ、そんなっ…このような派手派手しいもの、私などには、必要ございませんから…」
「何を言っているの! そんな、うじうじしたことでどうするの。『姉』の私の恥になるのよ、貴女がそんなふうでは。では、私が選んであげます」
 精華は強引に弦乃の手を引っ張り、店の奥へと分け入った。次々と出現する花柄、水玉、縞模様、星にハートにアニマルプリントの下着に囲まれて弦乃はすでに卒倒しそうであった。顔色を悪化させながら弱々しくつぶやく。
「堪忍してください、精華さま…弦乃はもう、耐えられません。こんなものをつけるぐらいならいっそ、ふんどしのほうがまだましです…」
「やめてちょうだい、そんな品のないこと! ……弦乃、あなたって人はどうして、そんなに女子らしいことに抵抗を示すの」
「だって…私なんかに、私みたいな男女にこんな可愛らしいもの…」
 弦乃がうつむくと、精華は優しくその肩を抱いて言い聞かせた。
「『私なんか』なんて、言うのはおよしなさい。貴女はとても可愛い女の子なんだから。さあ、お顔を上げて、ご覧なさいな。このオレンジと、ピーチとでは、どちらがいいかしらねえ」
「いっ、いえ、あの、せめて色は白に…」
「だからっ、そんな比呂子みたいなオバサンくさいこと言ってないで!」
「ではせめてミントグリーンに…」
「わかった、わかった」
 精華はもう面倒になったとみえて、サイズもろくに見ないでブラを2、3個つかみ、弦乃を試着に連れていった。中にふかふかのピンクのじゅうたんが敷かれ、大きな楕円形の鏡がついた、広々としたアメリカンサイズのフィッティングルームである。
「ほら、早く、脱いで当ててみなさい」
「えっ、精華さまは、あっちへ行かれててくださいよ」
「何を恥ずかしがってるの、さっさと脱ぎなさい。さあ、私がフィッティングしてあげるから…ってあんた、ダメ、これ、全然ガバガバじゃん」
 適当に持ってきたブラを試してみて精華は首を振った。
「弦乃、サイズいくつなの?」
「測ったことがないから…知りません」
「バカね、今まで何やってたのあんたは! そうねえ…こ、これは…ええと…少し、寄せて上げる必要があるかしら」
 弦乃は失意のどん底に沈み込んだ表情になり、顔を覆ってわっと泣き崩れた。
「どうせ…どうせ私なんか、ペチャパイですとも! いいんです、胸なんかなくても、ないほうが肩だってこらないし……もうっ、もう私のことなんて、放っといてくださいぃ〜!!!」
「弦乃…ごめんなさい、な、泣かないで」
 精華は慌てて「妹」を慰めようと、彼女の頭を抱え寄せて一生懸命撫でてやったが、弦乃は精華の豊満なバストで窒息させられそうになって、ますます泣きじゃくるばかりなのであった。