「蓮奈さまあ」
 精華と蓮奈が向かい合って図書館で勉強していると、窓からぴょこりと頭をのぞかせ、蓮奈の「妹」が出現した。精華が「もじゃが来た♪」と楽しそうに腕を伸ばしてあかねの髪を引っ張る。
「よして、精華。それにもじゃじゃなくてあかねよ」
「この子が言ったもん、もじゃでいいって」
「私の妹なんだから、勝手に触らないで」と至って冷ややかに言い捨てると、蓮奈は「あかね、もう少しで終わるから、そこで待っていらっしゃい」と、うって変わって優しい声で言った。精華は手だけは引っ込めたが、一向に気にしない様子で尋ねた。
「もじゃは白百合様にどこへ連れてってもらうの」
「あまみどころに行って、おぜんぜいを食べるのです。あ、そうだ、蓮奈さまあ、これみて」
 あかねが窓からテスト用紙を差し出すのを、蓮奈は受け取ってやった。
「60点も取れたの、よくできたね」
「もじゃ、がんばったよ」
 蓮奈がほめてやるとあかねは飼い猫のように満足げな顔をし、「早くあまみどこにいこうよぅ」とねだっている。
「自分でもじゃって言わないのよ。それと、甘味処っていうのよ」
「見つけたよ、切原あかねーっ! またミーティングをすっぽかしやがって、今度という今度は半殺しじゃ済まさないよ、このちっこい毛玉めが!」
 怒鳴りちらしながら精華の「妹」が相変わらず土煙の立ちそうな勢いで彼方から疾走してくる。あかねは「うみゃー」と窓に飛びつき、スカートがめくり上がるのにも構わず身軽に窓枠を乗り越えて中に入ると、蓮奈と精華が座っているテーブルの下に急いで潜り込み隠れた。
「あらまあ弦乃さん。お元気そうで何より」
 蓮奈はすまして言いながら、足元にしゃがみこんでにこにこしている毛玉を優しく撫でてやるのだった。