【初出:『愛されてお金持ちになる魔法のあかやな本』(2005年10月発行)
パラレル3作品(『エコノミックアニマルズ』に再録した会社の話・蓮二と赤也が異母兄弟な話・この話)を収録しました。
言わずもがなですがこの話はもちろん『マ○ア様がみてる』が元ネタです】



「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
 優雅な挨拶がこだまする、聖リリアンヌ女学院の朝である。
「ご覧になって! 白百合様がおいでだわ」
「まあ、紅百合様もご一緒だわ」
 パラソルをさして歩いている美少女たちは、周囲の下級生のざわめきに穏やかな微笑みで応える。白い歯をのぞかせ花のごとき笑顔を見せているのは、紅百合と呼ばれる生徒会長の幸村精華であった。
「聞いていて、蓮奈? 貴女、いつになったら『妹』を作る気になってくれるの。私たち『野百合会』の約束事ではないの。貴女だけが独り身は、許されないことよ」
「放っておいて」
 白百合と通称されている柳蓮奈は、整った眉をわずかにひそめただけで、親友の忠告に耳を傾けようともしない。
「まったく、蓮奈はエキセントリックよねえ。貴女に憧れている娘は星の数ほどいるというのに。さすがは学園一の秀才、変人っぷりも半端じゃないわね」
「貴女ほど変わってはいないつもりだけれど……」
「何が言いたいの」
「何でもないわ。貴女の『妹』が今朝もあちらで待ち構えていてよ」
「まあ、弦乃、早いのね」
 マリア像の下、仁王立ちでこちらをにらんでいる後輩の真田弦乃のそばへ精華が駆け寄ると、弦乃は途端に頬に血の色をのぼらせ、恥じらいながら「姉」のかばんを受け取ろうとする。
(あの子は紅百合というより「鬼百合のつぼみ」だと言われているけど…精華の前ではかたなしね)
 蓮奈はひそかに苦笑した。硬式庭球部の次期部長と目されている弦乃は、ミスター・リリアンヌの異名をとる男勝りの猛者として知られているが、ロザリオの契りを結んだ精華にべた惚れなのである。
「蓮奈、明日はテニス部の応援に行くわよ。貴女も一緒に来なさい。独りで本ばかり読んでいて、生徒会役員の義務を果たさないのは許さなくてよ」
「なぜそれが義務なの」
「貴女が現われたら張り切る子が沢山いるからよ。我が校の県大会連覇のためにも協力しなさい」
 精華のわがまま放題には慣れているが、蓮奈はそっとため息をつくのだった。
(いやだな、日曜は「NHK俳壇」を楽しみにしてるのに)