西園寺先生はいつも興奮すると僕を罵倒する。
 お前は母親そっくりのセックス狂いで淫乱きわまりない雌餓鬼だ、って。
 僕をそうしたのは貴方じゃないの?って言いたいけど、母親の血をひいてるんだ、って罵られると僕の心は凍ったように動かなくなってしまう。
 セックス狂いで淫乱きわまりない遺伝子が半分と、もう半分は誰がくれたんだか定かでない、生まれからして禍々しい自分。うかつに人にあげられないような穢れた血が流れてるんだろうな。
 あの人だけが、僕に執着してる。父親も母親もとっくに僕に関心をなくしてるのに。僕は先生のその執着が怖かった。いまにあの人は、僕を殺すかもしれない。僕を永遠に手に入れるためだけに。生きてる目的が特になくても、死ぬのはやっぱり怖い。それとも、死ぬよりもっと怖いことをするかも…何年もひとつの部屋に監禁したり、一本ずつ四肢を切り落としたりね。そういう小説がほんとにあるんだよ。
 だから、僕はやぶれかぶれで真田にすがった。もう怖くて自分ひとりじゃどうしていいのかわからなかった。真田の返事が、僕にはいまだに信じられない。でも、あの時の記憶は確かだ。
 きみは言ったよね。お前は悪くないって。
 僕は悲しかったんじゃない。赦されて幸せで、泣いたんだ。


 雅治が僕のなかに入り込んでくる。徐々に曖昧になっていく意識を引き留めながら、僕は今かかっている曲のタイトルを思い出そうとしていた。
 甘い旋律が、思考を優しく奪い取る。
 身体の奥がとても熱いのに、僕の胸の中にはずっと、つめたい氷の欠片が刺さったままなんだ。
 誰がその棘を溶かしてくれるのか、僕にはわからない。