そんな、どうでもいいことを果てしなく続くシンセのリフのようにとめどなく考えながら、僕は雅治を感じさせてあげる。僕の絶妙なテクニックに、彼はあっさり抵抗を放棄して昇りつめる。お前は絶対僕に勝てないよ。僕は密かに胸の内でつぶやく。僕はこれにかけては百戦錬磨なんだから。思い出せないほど幾度もいろんな奴が僕につまんない勝負を挑んできて、僕は有無を言わせず奴らを屈服させてきたんだから。そう、どんなに汚されても、僕は傷つかない。素敵なブリリアント・カットのダイヤみたいに適当にいろんな面を見せとけば、みんな幻惑される。そして絶対傷つかないダイヤモンドみたいに、僕のピュアなハートは守られてる。誰も触れられないし垣間見ることさえできない。そもそも僕自身もそんなものがどこにあるんだか知らない。ずっと昔にどこかにしまいこんだまま忘れてたから、クローゼットの中の防虫剤みたいにとっくに蒸発してなくなったかと思ってた。
 あの日、真田が僕の前に現われるまでは。
 雅冶が急に慌てだして「ね、おい、幸村、ちょい待って」なんて言って僕を引き剥がそうとする。僕はくわえたまま抗議の声をあげた。だらしないよ、これくらいで。
「マジ、ヤバいんだってば」
「うそでしょ。早すぎない?」
 僕が思いっきり嫌そうに言うと、雅冶はきっとなって僕をにらむ。僕はわざとため息をついて、雅冶の飲み残しの薄まった午後ティーを勝手にいただく。不服そうに寝転ぶ雅冶のふくれっ面がなんだかおかしくって、僕は溶けかけた氷の欠片を口に含んだまま雅冶に近寄り、かわいく笑って鼻の頭におまじないみたいに唇を触れてあげた。そして、抱き締めようとした彼の腕をすり抜けて、もいちどナニをぱくってくわえてあげた。
「うっひゃ!! なにしやがる!」
 すごく焦ってる。僕はそれでひどく愉快になって、アイスキャンディみたいにして雅冶のをしゃぶってあげる。僕のつめたく冷えた舌に慰撫されて、雅冶は低く唸り声を洩らす。僕はちょっぴりだけ空想する。もし真田がこいつを半殺しにしたら、僕はふたりを手玉に取ったことになるのかな。それってなんだか、気分いいな。まぶしく光る緑の光のシャワーが、僕に突き刺さるように降ってくる。少しだけ酔ってきた気がする。いつもと同じだ。だんだん、いろんなことがどうでもよくなって、僕の記憶は多分もうすぐ途切れてしまう。