「雅冶ったら、自分から誘ってきといて、なに腰引けちゃってるの」
「だってよ、あいつ、一度キレたら半殺しって感じじゃん」
「……そんなじゃないよ」
 少し考えて、僕は答えた。確かにキレたら半殺しどころかそれ以上いきそうだけど…僕が雅冶としたからって、真田にキレる権利なんかないじゃん。
 僕は、きみのものになるって言ったのに、きみは僕に興味がないんでしょ。
 すごくつまんない。キレるんなら好きにキレたらいいじゃない。僕が何しようが、きみは痛くも痒くもないんだ。僕だって、きみが何しようが気にしないよ。何もしないだろうけどね! まかり間違ってきみに彼女ができたりしたら、その子に言ってやろっと。僕が真田の初めてのオンナなんだよって。
「真田のことなんてどうでもいいからさ、早くやろうよ」
「ホンっトーに、どうでもいいんな?」
「しつこいよ」
 ピーチツリーフィズを飲み干して僕はテレビを消し、「高原の朝」をやめて「クラブ・トランス・ディライト」をセレクトした。雅冶も、ベッドサイドのパネルをいじって灯りを消す。
「ちょっとニギヤカにすっか」
 部屋の隅についてるエフェクターみたいなのをかけると、きれいなグリーンのレーザーが天井に回りだして、僕はうっとりする。エアスケープの「レスペランザ」にうってつけの照明だ。雅冶は僕に軽くキスをして、嬉しそうに髪を撫でてくれる。僕は雅冶のスレンダーな身体に腕をまわして、彼と視線を合わせる。おたがいの瞳の中に蛍光緑がちかちかして、眩暈をさそう。すぐにトランスの境地に入れそう。
「真田にしてあげたみたいに、してあげるね」
 そうささやいて、僕は雅冶のアレを口に入れた。あの子が伝授してくれた秘技は効果抜群だ。雅冶は「すっげ、イイよ」って僕の髪に指を突っ込んでかき回す。舌を使いながら見上げると、目を細めてほんとによさそうな顔してた。結構かわいい。大人ぶってクロムハーツなんかしてるけど、雅冶にはもっとシンプルなのが似合う気がするな。それに今はピーチのボディソープのふわっとした匂いがしてるけど、さっきチャリに二人乗りしたときに香ってたものすごいココナッツ系のコロンはよせって思った。あれ、多分女物じゃないの。