学校に帰ってきて、ホームルームをやって掃除して部活に行こうとしてたら、自転車置き場で雅冶に会った。
 ジャケットは着てるけど、相変わらずタイはしてない。
 こいつ、部活にだけはちゃんと出るんだよね。一日サボってテニスだけしに来るってなんだか不思議。そんなに、テニスが好きなのかな。
「雅冶、いまご出勤なの」
 声をかけると、チャリに急ブレーキをかまして飛び降りながら、僕につまらなさそうな目を向けた。
「儲かった?」
 僕ははっきり、目を見て、にっこり笑って言ってあげた。雅冶の細い眉が寄って、(は?)って感じの顔になり、そのあとちょっと得意そうなにやにや顔に変わった。
「いいな、儲けたならおごってよ。黙っててあげるからさ」
 雅冶は黙ってにやにやしている。結構見栄えのするルックスだと思うんだけど、なんでこういう頭の悪そうな顔をわざとするんだろう。知ってるよ、ほんとはこいつ、結構冴えてる。ゲームメイクが巧いし、無駄に熱くならない。
「オレも黙っててやるから、おごってよ、ゆっきー」
「なにを?」
「唐揚げ担々麺がいーなあ」
「そうじゃないでしょ、もう」
 ふざけてるんだと思った。突然、雅冶が言うんだ。
「ゆっきー、真田とラブホ行ってたじゃん」
「へー」
 僕はリアクションをケチった。そして、表情を変えないように気をつけながらモードチェンジした。
「どこの?」
「北口の、ピーチムーン」
 うそ、まさか。
 信じられないけど、あそこ近くにパチンコ屋あったっけ?