「あ、見てあれ、雅冶じゃん?」
 スクールバスの窓におでこをくっつけて、ブンちゃんが言った。
 ゴールデン・ウィーク明けの外は暑そう。僕らのクラスは朝から、社会科見学ってことでバスに乗ってお出かけ。横浜港の大さん橋に行くんだよ。帰りはランドマークプラザかどこかで昼ごはんを食べるんだ。
 それはいいけど、雅冶がどこにいるって?
「うそうそ?」
 ほんとだ! あいつ、制服着たままパチンコ屋さんの前に並んでる。まあ、ジャケット脱いでタイも取ってればどうでもいい服装に見えるけど。
 Lサイズのドリンクカップに差したストローをくわえて、新聞読んでた。バスが角を曲がると、ブンちゃんはにーっと八重歯を見せて声をひそめた。
「みーっちゃった、みーちゃった。まさかオレらに見つかるなんて思ってないだろーなあ」
「なんか、あの場に溶け込んでたよね。余裕って感じ」
「ユキぃ、パチンコって儲かるの?」
 さっそく携帯をいじりながらブンちゃんは僕に聞く。僕は「たぶん、儲からないと思う」と答える。堅気の人がパチンコで稼ぐなんて絶対無理。考えるだけ無駄。下妻物語の桃子ちゃんみたいに、特異体質なら別かも。でも、僕はギャンブルって全然楽しくない。負けたとき真剣に悔しいから。僕は、運を天に任すっていうの、あんまり好きじゃない。
「へー、じゃねえよジャッカル。リアクションケチりすぎ」
 ブンちゃんは不満そうにつぶやいて、誰か別の人にメールし始めた。僕も誰かにタレこんじゃおうかな。
 僕の携帯に入ってる沢山のアドレスの中の誰かに。土曜の夜のクラブで出会った子とか、神奈川で一番遊んでる高校って有名な学校に通ってる従兄から紹介された子とか、小学校からの友達で別の学校に行った子とか、父さんの会社の若い人とか。