【初出:『愛されてお金持ちになる魔法のあかやな本』(2005年10月)女子校・会社と一緒に掲載したパラレル3部作で「もしも赤也と蓮二が異母兄弟だったら」なネタです。この話は一応、他の立海メンツも全員が異母兄弟という設定があるんですよ!】



「待っていたよ、赤也くん。ようこそ」
 迎えの車を降りると、瀟洒な洋館風の本社の玄関前に件の男が立っていた。
赤也は無造作を装って男の招く方へと進んだが、内心は緊張と、そして怒りや疑い、心配、打算、それらの入り混じった複雑な心持ちであった。無理もない、わずか14歳の彼が突然連れて来られたここは、日本有数の巨大財閥の本拠であり、無論、彼の人生の中ではまったく縁のない場所であったからだ。
 これまでは。
「今日は、君のお母様の月命日か」
「なんでアンタがそんなこと知ってるんだ」
 シックな色合いのふかふかの絨毯に足をとられそうになりながら赤也は毒づいた。乾というこの年齢不詳の男は、無言で眼鏡の奥の瞳を細めた。落ち着き払った態度が、また赤也を苛立たせるのだった。
「私は入社以来ずっと、君の父上のもとで働いているからね。大抵のことは知っていて当然さ」
「……俺は、教えてもらってなかっただけだ」
 エレベーターに乗り込み、ちょっとした個室ほどの広さのある箱が滑らかに上昇を始めると、赤也は居心地悪そうに目を逸らし、不満げにつぶやいた。
「なんでなんだよ。なんでアンタたちは…お袋もだ、なんで誰も何も教えてくれなかったんだ。俺が…俺がここの社長の息子だったなんて」
「社長とは言わない。CEO、最高経営責任者だ」
「そっ、そんな違い、どうでもいいだろ」
「どうでも良くはない。君は今日から…いや、そのことは直接、君を招待した御方から話していただこう」
 乾は無表情で答えた。赤也は「ちッ」と舌打ちして軽く床を蹴った。何もかもが気に喰わなかった。女手一つで育ててくれた母が癌で亡くなり、途方に暮れていた時に突然現われた彼ら…乾以外にも数人の、頭は切れそうだが愛想のない事務的な男たちが、断りもなく彼の生活を変え始めたのだ。気づいた時には勝手に自宅の荷物を洗いざらい運び出され、勝手に転校させられていた。その後の1週間は豪勢なホテルで生活させられ、新しい学校へ車で無理やり送り迎えされている。それも、何の説明もないままにであった。
(だけど…今日こそ教えてもらえるはずだよな、こいつらの目的が何なのか。いや、これ以上勝手に引き回されてたまるか!)
 動き出した時と同じようにエレベーターが静かに動きを止め、扉が開くと、そこには到底オフィスとは思えない静謐な空間が広がっていた。