卒業式の日、切原君は真田先生の研究室にやってきて「先生、お世話になりましてありがとうございました」と頭を下げました。
「単位がギリギリだったんスけど、先生の英語を通してもらったおかげで、なんとか卒業できました」
「手加減したわけではないぞ。君の実力だ、もっとも、点数のほうは確かにギリギリだったがな」
 真田先生はやれやれという顔で笑いました。
「4月からはどうするんだね」
「それが、絶対卒業できねえと思って就活、なんにもしてなかったんで…職業指導部の人に泣きついて、どうにか世話してもらいました」
「良かったな、勤め先が見つかったのか」
「はい、職業指導部に勤めるッス! 嘱託だけど、ちゃんとがんばったら職員になれるかも」
 蓮二は猫つぐらの中でにこにこして聞いていました。切原君が大学に勤めることになって、エージは「そら見ろ、オレの言ったとーりじゃん」と笑いましたが、みづきは大変不満そうに「就職できなかった人が職業指導部で、何を指導するっていうんですか? そんな甘いことでいいんですかね」と皮肉を言っていました。ジロは、切原君はテニスが上手いから理事長の景吾たんに気に入られたんだろうと言いましたが、蓮二はどんな理由だろうと切原君が大学に残ってくれることが幸せでした。
「それと、先生の猫にも世話になったんで、これをやってください」
 切原君がそう言ったので蓮二は猫つぐらから顔を出しました。
「世話になったって? どういうことだ」
「いやあ、それはヒミツっすけど…へへへ」
見ると切原君は、新しいきれいなノミとり首輪を持っていました。海堂君にもらった首輪は汚れてすっかりぼろぼろになっていたので、蓮二はとても喜びました。切原君は首輪にまた、名前と研究室の電話番号を書いてくれました。
「ねえ先生、こいつはいつからここにいるんですか?」
 切原君が聞くと真田先生は、昔を懐かしむような顔をして言いました。
「きっと、ずっと昔の俺が学生だった頃から何代も、この大学に住んでいる猫の末裔なんだろうな」