門の中にはきらめく硝子のぶらんこが、かすかな笛のような音をたてて揺れていました。そして、美しい妖精がそのぶらんこに座り、優しく彼を見つめているのでした。妖精はふわりとぶらんこを降り、土に刺さった剣を引き抜いて彼に微笑みかけました。柔らかく波打った栗色の髪の毛が、その薔薇色の頬を縁取っていました。
「ああ、なんてお麗しい……」
 少年は息を飲みました。そしてふらふらと門に近づこうとしました。しかし、
「姫を…我が姫を見たな! 貴様のその禍々しい赤い目で。この薄汚い下郎めが!」
 逆上した門番が彼の背中に向かって魔法剣を突き出したのです。炎の剣が少年の肉を焼く一瞬前に、竜の頭の宝杖が割って入りました。
「独断専行だな。参謀の権限で制止する」
 感情のない声で魔道師は告げました。そして、静かに進み出ると宝杖を少年の額に当てたのです。
「あ……」
 身体の中をなにかが貫いたように感じて、少年はそこに崩れ落ちました。
 魔道師は少年の額から吹き出した小さな虹色の光を掌に納めて、ゆっくりと拳を開きました。そこには七色に輝く宝珠が載っていました。
「きみのデータを戴いた。姫にさしあげるよ」
「お、オレは、どうなるんですか…」
「我々同様、姫に仕えるしもべとなる」
 魔道師は門の中を指差します。妖精は小さく首をかしげながら微笑み、少年を見つめて口を開きました。
「あなたの名前は、赤い瞳。皇帝と参謀閣下との間に、列してさしあげます」
「異議あり! このような礼儀知らずを…」
「あなたも背後から襲いましたね。礼儀のないことです」
 妖精に諭されると魔法剣士は悄然として黙り込みました。魔道師はひざまずいて少年の手を取り、
「貴殿に第二冠位を」
と告げて階段をひとつ降りました。その日から赤い瞳は、妖精の姫の左に侍る騎士となりました。


「と、いう、お話ですよ。面白かった?」
「柳先輩、いまの話、オレと何の関係があるんスか? なんか新しいRPGの原作ッスか?」
 蓮司はノートを閉じて、ふふ、と笑った。笑われて機嫌を損ねた赤也は、今日こそアンタぶった切ってやる、と息巻きながら剣でなくラケットを振り回してコートに出ていった。