「ここが……」
 目指していた場所なのか。少年は額の汗を拭い、呆然とその巨大な門を見上げました。豪奢な城門の内側は純白に輝いています。しかし、その前にはふたりの恐ろしい番人が、大剣と宝杖とを掲げて門を守護しているのでした。左側に立っているのは長く衣の裾をひいた魔道師です。竜の頭の飾りのついた杖を持ち、不揃いな黒髪の下の額には宝玉の飾られた環をはめて、目を細め不気味に沈黙していました。そして、右側にいる甲冑をまとった長身の美丈夫は、不死鳥を模した柄の魔法剣で真っ直ぐに彼を差し、
「貴様か。守護の者たちをことごとく打ち破った挑戦者とは」
 重々しい音調で呼ばわりました。猛々しい外見と裏腹に、水に映った月のごとく、静かなまなざしをしています。
「そうッス! 門を通して欲しいっす」
「千年早いわ!」
 一喝される前に少年は剣を抜き、滑るように相手に迫りました。しかし、
「遅い」
 魔法剣士の刃からは透き通った炎が立ち昇り、一直線に少年の前に飛んできました。少年は両手を焼かれ、呻いて剣を取り落としそうになりましたが、死力を尽くして立ち向かいます。しかし、
「どうした、もうおねんねか?」
 なぶるように炎の魔法剣を振るいながら、敵は凄絶な笑みを浮かべて彼を愚弄するのです。
(この野郎…殺す!)
 少年の瞳は紅く燃え上がりました。同時に、すさまじい闘気が彼の身体から吹き上がります。一声吠えて得物を振り上げると、相手と刃を交えました。鋼と鋼の打ち合わされる高い音が暁の空に響き渡りました。
 剣技でも腕力でも、門番には到底かないません。少年は、それでも己の意思を信じ続け戦いました。ついに門番がその豪腕で少年の剣を弾き飛ばします。剣は澄んだ音を立てて飛んでゆき、弧を描いて門の内側の地面に突き刺さりました。得物の行方を目で追った少年は、そこに信じがたいものを見ました。