むかしむかし。  ある所に、天まで伸びる階段がありました。
 階段は空へとそびえ立ち、その頂は白い雲に包まれ、どこへ続くのかは誰も知りません。
 ある日、ひとりの剣士が階段に足を掛けました。茨の冠のような髪をしたりりしい少年です。まだあどけない瞳に決意を秘めて、彼はどこまでも続く階段を上り始めました。白い雲がいつしかその姿を飲み込み、地上の民は彼の運命を嘆きました。
 雲が夕焼け色に変わり始める頃、階段を上る剣士の行く手をふたりの者が阻みました。
 獣のように色の黒い、頭を丸めた槍使いと、鞭を手にした赤銅色の髪の敏捷そうな男です。
「てめえが頂上へ赴くにふさわしいか、俺たちが見極めてやろう!」
 槍使いは剣士の前に立ちはだかり、頭上で長い得物を勢いよくぶん回して叫びます。
「いざ!」
 少年は獰猛な微笑を浮かべ、腰の愛剣を抜き放ちました。
「アンタら、どっちも潰すよ!」
 目にも留まらぬ速さで槍を跳ね除け、彼は黒い男のふところに飛び込もうとします。
「くッ……4つの肺を持つ男と言われる俺を、なめるなよ!」
 槍使いは得物を抱えあげて蹴りを繰り出しました。危ないところで少年はそれを避け、突き出された槍の柄を掴み取って、逆に強く押し返しました。槍の柄が腹に入り、黒い男は「ぐおっ」と声を洩らして転がされました。
「よくもジャッカルをやりやがったな。次はオレ様だ、見な!」
 赤毛が階段の上のほうから、鋭く踊る鞭を一閃させます。刃と絡んで激しい火花が飛びました。
「どう、天才的?」
「そりゃこっちのセリフ」
 蛇のようにうねる鞭を跳んで避けると、少年は剣をひらめかせ、鞭の端を斬って落としました。赤毛は「くそ!」と逃げ出します。少年は息を整え、階段をさらに上っていきました。