「僕を蔑んだでしょう。さぞかし、堕落しきった汚らわしい奴って思ったよね。僕はきみとはちがうんだ、きみみたいに真直ぐに生きられないよ、いまさら」
「なぜそんなふうに、自棄になるんだ? それに俺はお前を蔑んでなんか−」
「いない? そう? 無理しなくていいよ」
 凄絶な微笑を浮かべ、幸村はゆっくりと俺に近寄ってきた。
「もしかして、僕を可哀想な被害者と思ってるでしょ。ちがうね……僕はあれを楽しんでるよ。知ってる? 縛られてエッチするのって、ものすごく興奮するんだよ」
「な−」
 見せつけるように胸をはだけさせて、視線で俺を射抜く。恐怖に近い感情に支配されて俺は凍りついた。夕暮れ時の薄闇の中で、幸村の白い肌は真珠みたいに輝いてみえた。
「僕は、きみに憧れてた。きみのテニスは凄いと思う。パワーとスピード、どっちも申し分ないし、何よりきみは動揺しない。負けるかもなんて、一瞬たりとも考えないでしょう。それだけきみは強いんだ、自分に絶対の自信があるってことだよね」
「か…買い被るな」
 声が掠れた。俺より少しだけ背の低い幸村は、禍々しく光る目で俺を見上げた。
「きみが憎らしい。いつもそんな自信たっぷりの顔して、邪魔する奴はためらいなく斬って捨ててる、きみが死ぬほど羨ましい。僕は覚えてる限りの幼い頃から、自分がこの世にいることの根拠さえ疑ってた。僕がテニスをやらされたのは、母が西園寺先生に会う時間を作るためだよ。それにこの学校に入れられたのは、先生が僕を監視して思い通りにするためだ。あんなの、あんな恥ずかしいこと、合意の上なわけないだろ。でも僕はあれに慣らされちゃったんだ、しかも、あれを、気持ちいいと思うようになっちゃってる」
 幸村は息を弾ませながらしゃべり終えて、しばらく俺の目を見ていた。俺は視線を外さなかった。いや、外せなかったのだ。幸村の迫力に気圧されて、何ひとつ言い返せなかった。俺が動揺しないなんて、どこから出てきた話なんだ。今、俺は、もう立っていられないほどめちゃくちゃに動揺している。
「真田、あれしたことないんでしょ」
 当たり前だよね、きみみたいな完璧な優等生が。もしかして、自分でやったこともないんでしょ。そう言ってえくぼを作ると、幸村は信じ難いことを告げた。
「凄い目に遭わせてあげる。さ、座って。手を使っちゃ駄目だよ。これで縛られてるって、思ってごらん」
 俺のタイを手に取って緩めながら、身体をぴったり近寄せる。へなへなとベンチに座りこむしかない俺の前に膝をつくと、電光石火の素早さで俺の秘密を暴いた。
「よせ、止めてくれ…」
「僕、これ上手いんだよ。きみなんか秒殺だ」
 なんのためらいもなく俺の股間のものを取り出し、口に含む。途端に俺は、痛みにも似た物凄い快楽に襲われた。意思の力ではどうしようもない、抗い得ない心地よさがあっという間に肉体を蹂躙する。俺が苦悶の声を洩らすと、幸村はクールに言った。