なんだか急に疲労感が深まった。俺は向かい側のブースに入って熱いシャワーを浴びた。普段の練習の後ではシャワーを使ってさっぱりして帰るわけにはいかないから、大学に来た時にはそれなりに有難い。
「あれ?」
 水音に重なって、向こうのほうで声がする。
「なんだ」
「ボディソープが終わってるや。やだなあ」
「どこかにあるだろ」
「……こっちもないじゃん。もう、頭きちゃうな」
 多分、皆が使ったのでなくなってしまったのだろう。なくてもべつに死ぬわけじゃないし、と思っていると、幸村の声がすぐ近くで聞こえた。
「ねえ、真田のとこの、ちょっともらえる?」
「は?」
「開けていい?」
 どきりとした。幸村のやつ、まさかまた何か仕掛けてこようというのではないだろうな。
 しかし「嫌だ」というのも子供じみている。俺は棚に置いてあるボディソープの容器を取ると、思い切ってカーテンの端をめくった。当然のことだが一糸まとわぬ姿で幸村が立っていた。
 髪の毛が濡れているので普段と印象が違う。それに、なんだかずいぶん華奢に見えた。
「ありがと、貸りるね」
 幸村は俺が差し出した容器を受け取ると、あ、こっちのやつ僕のとこのと違う、シトラスマリンだって、とか何とか言いながら持っていってしまった。
 シャワーの下で、俺は急激に上昇した心拍数を持て余した。今のは一体何だったのだ。こめかみの辺りがずきずきして、気分が悪くなってきそうだった。同時に、この程度のことでこんなふうになっている自分に、憤怒に近い嫌悪感を抱いた。なんだって男の裸を見てここまであたふたしなきゃならないんだ。幸村もおかしな奴だが、俺も相当おかしい。