幸村は何を考えているかわからないというより、何も考えていない気がする。ただ夢中でボールと戯れているみたいだ。柳と幸村はほとんど互角に渡り合った。熱くならないのが身上の柳も、幸村の変則的な攻撃にやや頭にきているようだった。一日中戦ってきて疲労もピークにきている。皆が試合を終えて周りに集まってしまったので、これはやりづらいだろう。
 1年生は熱狂的に幸村を応援している。きれいな可愛い顔をしていて容赦なく強い。無邪気にひらひらしているくせに、背筋の凍るような腹黒さを隠し持っている。でも、俺の前で助けてと言って泣いた。抱き締めたら壊れそうなほど、震えていた。あれは、幻だったんだろうか?
 接戦を振り切り、最後にドロップボレーで決めて幸村が勝った。ラストサービスを入れる前に「蓮司、今日は僕がもらうよ」とにこやかに言い放ったのが、咲坂さんの彼女のお気に召したらしく、幸村は咲坂さんに彼女を紹介してもらっていた。



 Aレギュラーに入った俺は入れ替え戦終了後、3年の先輩たちとミーティングに出た。幸村に負けた永沢副部長は俺を見て、いよいよお前たちの時代が来たな、と言った。
「お前と幸村と柳はずば抜けてるよ。俺たちが引退した後も安心だ」
 俺は永沢先輩に聞いてみたかった。誰が部長になるのがいいと思いますか、と。柳がなってくれれば一番いいかもしれない。几帳面で冷静だし、余計な感情を交えずに部を率いてくれるだろう。
 ミーティングが終わるともう午後6時近かった。クラブハウスの地下のシャワールームを使っていいことになっていたが、遠慮して俺は先輩たちが使い終わってからシャワールームに行った。なんといってもAレギュラーの2年生は俺だけなのだ。Bレギュラーのほうはどうなったんだろう、と俺は指を折って数えてみた。幸村がトップになり、2番が柳、そしておそらく1年生の切原が最後の席を勝ち取ったのではないか。切原は態度が悪いのが問題だが、実力的には2年と遜色ない。