「きみ、なんにも受け取ってくれないんだから」
「いらん」
「あのね、適度に抜かないと体内に余計な蛋白質が溜まって、健康に悪いらしいよ」
「まったくもって余計なお世話だ」
「真田ってほんと…なんていうか…いいよね」
 図書室の中なのに幸村は盛大に笑い出して、周囲の顰蹙を買った。少し離れた所のテーブルで女子のグループがちらちらとこっちを見ている。幸村は女子に人気があるのだ。
「とにかく、金を取るなんてくだらない考えはやめろ。本来の趣旨から外れる」
「でも要求するんだろ。だったら、本当にいただこうよ。五千万とは言わないけど、五十万くらいはもらおう」
 結局、その話題を途中で打ち切ったまま、大学のPCラウンジに来たのだったが、実際に金を取るとなると大ごとだな、と俺は頭を痛めた。確かに盗撮も犯罪だが、そんなちゃちな軽犯罪とは比べ物にならない話だ。
 そして、俺が悩んでいるというのに当人の幸村は嬉々としてマインスイーパに熱中している。俺は腹を立てながら横から画面をのぞきこんだ。幸村は前を向いたままくすっと笑って「なに」と言った。
「きみって平熱が高いね。そばにくるとなんとなくあったかいよ、うちの犬みたい」
「暑苦しくて悪かったな」
「また怒ってるの」
「早くその地雷原を片付けろ」
 俺達が言い合っていると、後ろから声をかけられた。
「なんだ、真田、来てたのか。幸村も一緒か」
「あ、咲坂先輩だ」
 大学生の咲坂さんが後ろのテーブルでノートを広げていた。咲坂さんは付属中のテニス部の先輩で、大学でも硬式庭球部に所属している。一緒に座っている人たちも部活動の仲間のようだった。
「こいつら、2年だけどうちの中学の次のAレギュラー候補だぜ。あ、もう入ってるんだっけ?」
「今週末の入れ替え戦で決めるんです。今、真田くんがBレギュラーのトップで、僕が2番」
 幸村が答えると咲坂さんは幸村の頭を乱暴に撫でて言った。