地雷のマークが散らばったフィールドを、幸村は着々と掃除している。
【法学部クリーンアップ月間実行委員会】という意味ありげな名称は幸村がつけたものだ。俺達は西園寺を脅迫するのに、学内の存在が法学部長の椅子を巡る争いを牽制しているふりを装った。幸村自身は西園寺が自分に関心を無くしてくれさえすれば、手段はなんでもいいと言っていたが、内容が内容だけに真正面から交渉してどうにかなるような問題ではないから、脇から攻めようと俺は提案した。立海大の法学部長という肩書が社会的にどの程度のものなのか、中学生の俺達には正直いってまるで見当がつかなかった。とりあえず西園寺がその地位を狙っているという情報があったので、脅迫の材料に使ってみた、という程度の軽い気持ちだったのだが、西園寺のヒステリックな返信を見るにこの作戦は当たったらしい。むしろ予想以上に奴を萎縮させたようだ。
 これで西園寺が警戒して幸村から手を退けば大成功だ。脅迫の目的が何なのかはっきりしないのはかえって怪しまれそうだから、どこかの時点で金銭でも要求してみるか、と俺は冗談のつもりで言った。すると幸村は驚くほど冷たい目になって「やろう」とうなずいた。
「五千万くらいふんだくろう」
「な……?」
「あいつは土地付きの自宅と都内にマンション、車もBMWと国産の何かと2台持ってる。どうせ親の遺産だ。ふっかけてやろう」
「いくらなんでも、そこまで大それたことができるか。要求するふりだけだ、第一、本当に金を取るとなったら…」
「犯罪だって? 盗撮も立派な犯罪だろ。もうとっくに犯罪に手を染めてるよ、僕ら」
 そのとき俺達は図書室で話していた。幸村は冷ややかに瞳を輝かせ、俺に向かってけだるく微笑みかけた。
「犯罪だろうが何だろうが、ばれなきゃいいんだ。やり方次第だよ、ばれないようにふんだくってふたりで山分けしよう。いや、6対4くらいでもいいよ。感謝のしるしに上乗せする」
「感謝のしるしはもう結構」
 俺はややうんざりした。こいつの本性がだんだん分かってきた気がする。