「じゃあ、お父さんとお母さんと一樹と弦一郎の4人家族?」
「同じ敷地の中に祖父母が住んでるけどな。あと、祖母の猫がいる」
「猫はなんて名前?」
「牡丹と、紬と獅子丸」
「3匹もいるんだ。可愛い?」
「普通の三毛猫と白猫とトラ猫だ」
「いいなあ」
 鏡の中で幸村はにこりとした。こんなふうに素直に笑えるのに、なぜ、あんなとんでもないことをやってのけるのだろう。
「お前の家はどんななんだ」
「うちも、両親と妹の4人家族。それと犬のモコ。ウェスティって犬だよ。ウェストハイランド・ホワイトテリア」
「携帯についてる白い犬か」
「あ、そうだよ。よく分かったね」
「お前の携帯の−」
 俺の名前についてるハートマークは何なんだ?
 それを尋ねようとして、俺は口ごもった。ハートマークがついてる俺の名前。
 幸村は誰かに片思いをしたり、告白したり、されたりしたことがあるんだろうか。
 誰かが幸村を好きになって、つきあって、心から大切にして慈しんでやれば、こいつのわけがわからないところも治るんだろうか。
 その誰かは、俺でもいいんだろうか?
 幸村は鏡の中の俺に向かって、本当に昼寝していい?と聞いた。どうぞご随意に、と答えると、じゃあ、おやすみなさい、と言って目を閉じた。
 俺はそっと、傍らにいる幸村を見た。小さく胸の辺りが上下している。
 謎だらけだ。鏡の中の自分に、俺はしかめっ面をした。