「じゃあ、僕のおごりで2時間、映画でも観て」
「その前に早く丸井にメールしろ」
「きみはどうする?」
「柳にする」
 俺たちはお互い黙ってメールを打ち、送信した。幸村はベッドに寝そべって、僕、昼寝していいかな?と言った。
「好きにしろ。……丸井に何てメールしたんだ」
「真田とホテルにいるから部活に出られません。適当に誤魔化してください。……ウソ! 嘘に決まってるだろ! もう、なに本気で怒ってるんだよ。真田ってほんと、わけがわからない」
「わけがわからないのはそっちだ! まったく謎だらけだ、お前は」
 つかみかかろうとした俺を避けて転がりながら、幸村は枕に顔を埋めて死ぬほどおかしそうに笑い出した。謝意を表明すると言った相手にひどい仕打ちだと思う。俺はぐったりして、ベッドの端のほうに仰向けに寝転んだ。すると天井に鏡が張ってあって、思わずぎくりとして俺は幸村を振り向いた。まだくすくす笑っている。
「……わけがわからないっていうか、きみのこと、あんまり知らないもんね」
 しばらく沈黙してから、鏡に映った俺と目を合わせて、幸村はつぶやいた。
「真田って、下の名前、弦一郎っていうんだよね?」
「ああ」
「じゃあ、長男なんだ」
「いや、兄貴がいる」
「なんか変、それ」
「俺もいつもそう思ってる」
「お兄さんはなんて名前なの?」
「かずき。数字の一に樹木の樹という字」
「それって……すごく変……だけど面白い。ほかに兄弟いるの?」
「いない」