「僕、なにか真田にお礼がしたいな」
 小首をかしげて考えるような仕草をしながら、幸村は言った。
「気にするな。すべてが片付いたら、祝えばいい」
「でも、謝意を表したいからさ……ちょっと来て」
 取り合わずに幸村は勝手に歩き出した。仕方なく俺はついていった。
「このあと部活だぞ」
「今日はさぼろうよ」
「冗談じゃない」
「じゃあブンちゃんに誤魔化しといてってメールする」
「丸井が俺の分まで誤魔化してくれるはずないだろ」
「きみは、蓮司にでもメールしたら」
「……そんなことできるか!」
 幸村はくすくす笑いながら歩いていく。俺は、やれやれと思いながら後を追った。外せない用事がある時にきちんと言い訳を用意して休むのはいいが、唐突に休んでサボりだとばれると後が面倒だ。それに、柳は勘が鋭い。
「どこまで行くんだ」
「すぐ近く」
 商店街を抜けて、ビルやマンションが立ち並んでいる一角に来た。急に幸村が俺の手を引っ張り、
「こっち」
と、駐車場の中に入っていく。マンションのゴミ置き場のようなところの横を通って、裏口みたいな所から中に入った。なんだか趣味の悪いマンションだ。玄関ホールに紫色のカーペットが敷いてあって、イミテーションの変な観葉植物がやたらに置いてある。
「ここで待っててね」
 エレベーターの前に俺を残して、幸村は管理人室の窓口みたいなところに近寄り、何かを取ってポケットに入れた。俺は柳に何とメールするか悩んでぼんやりしていた。幸村がにこにこしながら戻ってきて、エレベーターのボタンを押した。すぐに扉が開いたのでエレベーターに乗った。