「ミッション完了だよ。そっちの首尾はどう」
「パーフェクト」
 俺は携帯を幸村に投げた。幸村は画像を見て「ふふ、アヤシイ」とふざけた。
「例のアドレスに転送して、あとはちゃんと削除しておけよ」
「了解。……なんか、笑いそうになっちゃった。きみがどこかに隠れてると思ったら。笑ったら演技が台無しだと思って超必死で我慢したよ」
 ベンチに座ると幸村は本当にくすくす笑って、ふと俺を見上げ、真顔になった。
「あの……真田、今さらだけど、ありがとう」
 俺はよくわからないという顔をした。幸村は風に吹かれた髪の毛を押さえながら、瞳を遠くへ逸らした。
「あの人と会ってる間、ずっと思ってた。いま僕に何があっても、真田が知ってるから平気って。こんな安らかな気持ちになれたのって、初めてな気がする」
「何があってもって、これ以上何かあったら大変だろ。俺はそんなことの証人になりたくないぞ」
 俺が言い返すと、目を伏せて微笑を浮かべた幸村は、しばらく黙っていてから言った。
「でもね、ほんとに助かる。秘密って、ひとりで抱えてるとすごく重いけど、ふたりで分けると全然軽くなるんだね……きみに半分持たせちゃったのは、悪いと思うけど、ものすごく感謝してるよ」
 こいつは本当に、誰にも言わずにずっと一人で耐えてきたのか。俺はあらためて、幸村の気丈さに感銘を受けた。電話をかけたりかけられたりする友人が何人いても、あんな重大なことを明かすことのできる相手はいなかったのだろうな、と俺は幸村の言う秘密の重さを想った。
 それにしても、なぜ誰か大人がもっと早く、気づいて彼を労ってやらなかったのだろう。幸村はあまりにも幼いうちから徹底的に、いろいろな意味で傷つけられていた。表面的には気丈に見えても、彼の精神は奥深いところで致命的に損なわれていることに、俺はその時まだ、気づくことができずにいた。