まぶしい木漏れ陽の下、密談を交わすふたり。
 高い空の上から見たら、俺たちはどんなふうに映るんだろう。
 爽やかな風が吹いて、髪をふわりと揺らすと、幸村は困ったような顔をして髪の毛を手で押さえる。まるで、君は素敵だね、と言われて困っているような顔で。
 俺はそれを見ている。君は素敵だね、と思いながら見ている時もある。
 こういうもどかしい気持ちのことを「かたおもい」と呼ぶこともあるんだろうか。
 俺は片思いや告白や交際を跳び越えて、幸村と深い仲になってしまった。好きとか愛しているとかそんな言葉を、やりとりする間もなく身体を繋げた。それは罪深いことかもしれないけれど、今から遡って片思いをするところから、やり直せばひょっとして許されるのではないか。そんな馬鹿馬鹿しいことを俺はいま、考えている。
 母親の愛人という立場を利用して長い間、幸村を支配下に置いている西園寺に手を退かせることを俺は幸村に約束した。西園寺は立海大法学部の古参の教授で、次の法学部長の椅子を狙っているという話を、大学生の先輩から聞いた。
「お前が奴を、非常階段に誘い出せ」
 俺はそう命令した。幸村が西園寺を連れ出し、奴が怪しからぬ行為に及べば、俺はその証拠を密かに撮影する。西園寺の研究室のある法学2号館には、先輩たちのゼミ室や自習室もあるし、いくらでも忍び込める。写真をネタにメールで強請ってやろうというのが俺と幸村の立てた作戦だった。法科大学院に在籍している先輩が法学部のサーバー管理者でもあり、付属中のPCルームからアクセスできない会員制掲示板を見たいと言ったら、適当なメールアドレスをでっちあげてくれたのだ。
 学内の者を装った脅迫が、スキャンダルを嫌うはずの西園寺には最も効くだろう。
「やるからには徹底的にだ。ためらうなよ?」
「当然」
 数時間前、幸村は緊張の面持ちで俺の問いかけに答えた。覚悟を決めた瞳が普段以上に澄んで美しく見えた。
 俺自身は西園寺を、社会的に抹殺しても構わないと思うくらい憎んでいた。物理的に抹殺することはリスクが大きすぎるが、それ以外のあらゆる手段で陥れてやると一度は心に誓った。だが、幸村は俺ほど決然として徹底的に敵を退けるつもりがないようだった。やはり、幾度となく身体を重ねた相手には、それなりの温情が宿るものなのだろうか。俺には釈然としない。するはずもない、俺にはそんな経験がないのだから。その点においては俺は幸村に決定的に水をあけられている。