ユキは入院した。
 同じクラスの女子たちが授業のノートを取ってくれたのを預かって、俺が部を代表して見舞いに行った。他のやつらももちろん行きたがったが、蓮司によるとユキの病状は、大勢でぞろぞろ見舞いに行ってもいいようなものではないらしかった。
「ここだけの話だけど、俺、聞いちゃったんだ。看護婦さんが『先生も扱ったことがない』って話してるのを。考えたくないけど、もしかしたら…なにか大変な病気なのかもしれない」
 俺は自分だけで病院に行ったら、取り乱してしまう気がして、一緒に行こうと誘った。だが、蓮司は俺の頼みを断った。
「俺が行っても、何もできることもないしな」
 蓮司が妙に冷静なのが、正直いって不思議だった。そういえば、ユキが倒れた日にこいつらはケンカしていたんだっけな、と思い出した。それで気まずいんだろうか。でも、あの時は蓮司がユキを保健室に運んでくれたのに…と、俺は戸惑っていた。
「……ユキは、弦一郎に来てほしいと思うよ」
 しばらくして、蓮司は硬い表情でつぶやいた。
「仲直りしろよ」
 俺は言ってみた。すると、蓮司は目を伏せて小さく笑った。
「喧嘩したわけじゃないんだ」
「それなら…」
「いいよ、お前が行ってきてくれ」
 蓮司に見放されて、仕方なく俺は一人でユキの病室を訪れた。ユキは真っ白い壁と真っ白いカーテンに囲まれた個室に入っていて、そこはとても殺風景で寂しく気の滅入る雰囲気だった。看護婦さんに招かれて病室に入ると、ユキは白い寝具の中に埋もれたように寝ていて、ひどく小さく痛々しく、幼く見えた。俺は、近寄るのがなんだか怖いような気がして立ちすくんだ。
 それでも、俺を見つけるとユキはとても嬉しそうに起き上がり、来てくれてありがとう、とはにかみながら言った。そして、練習はどう?とか、1年生はがんばっている?とか、部長らしいことを尋ねたので、俺も副部長らしく返事をしたが、どうしてもユキの顔がまともに見られなかった。俺の知っているユキは、こんなふうではなかった気がした。
 届けたノートを開いて読みながら、
「ずいぶん授業、進んじゃったんだね。もうすぐ中間考査だもんね」
 と、淋しそうにユキがつぶやくのを聞いて、俺は思わず言った。
「いつ、退院できるんだ?」
 するとユキは、弱々しい微笑みを浮かべた。
「弦一郎、ぼくね、死ぬかもしれない」
 そのときも俺は、何も言えなかった。ウソだろ!と笑いとばしてやれたら、それとも、死ぬなんて軽々しく口に出すなよ、って諫めてやれたら、どんなによかっただろう。だけど、俺はどんな言葉も返すことができずにいた。ユキが死ぬなんて、そんなことが一体、あっていいのか。どうして、なぜ、ユキが。もしも、万が一それが本当になったら、俺はいったいどうすれば……