昼休みに丸井と桑原が来て、いきなり俺に詰め寄った。
「真田、お前、ユキと柳を仲直りさせろよ」
「なんで俺が」
「ばかやろ、お前しかいねーだろ!」
「なんで喧嘩してるのか知らないんだよ、俺も」
「は? バカだな、聞いてやれよ、無神経にもほどがあるぞ!」
 それならお前が聞けよ、と思ったが、いつも明るい丸井がびっくりするほど深刻な険しい顔をしている。
「俺は関係ないし……」
「どうでもいいから、早く仲直りさせろ! 副部長だろ!」
 丸井はぶすっとしたまま出ていってしまい、桑原がとりなすように言った。
「悪いな、でも、なんだか声かけづらい感じなんだよ。真田ならうまくやってくれるかなと、思って…」
「そう言われても、本当に何も知らない。昨日、俺が抜けた後で何かあったのか?」
「さあ…まあ、いいよ。真田は関係ないよ、あいつらの問題だもんな」
 桑原はそう言ったが、俺は次第に心配になった。だいたい俺ならともかく、ユキや蓮司が誰かとケンカするということ自体、あまり考えられないことだ。今まで長いつきあいだけれど、こんなことは一度だってなかったはずなのに。ガキの頃だってちょっと言い争ったりしても、次の日まで持ち越すなんてありえなかった。せっかく晴れた空がまた曇ってきたみたいに、俺の気分はまた落ち込みはじめた。
 そして、放課後が来てしまった。
 俺は1年生たちに指示を出し、わざと2年の仲間のほうへは近寄らずにいた。切原が「真田副部長、相手してください!」と自信満々で来たのでしばらく打ち合った。豪快なテニスをする奴なので、俺もかなり本気になった。ボールに集中していると、ほかのことなんか頭から消えてしまう。視界の端のほうでユキが誰かとラリーしているのがちらちら見えたけど、俺は切原の鼻っ柱をへし折ってやることだけを考え続けていた。
「あ!」
 サービスを上げようとしていた切原が突然、棒立ちになった。
「幸村部長が!」
 振り向くと、ユキがコートに倒れていた。