全国大会連覇を成し遂げ、先輩たちが部活を引退する時が来た。次の部長と副部長は誰になるのか、と1年生たちがうわさをしている。
「立海大付属テニス部の伝統だから、部長・副部長は2年生が互選で決めろ。これからはお前たちの時代だからな、お前たちに任せる」
 先代の部長に言われて、皆しばらく顔を見合わせたが、
「真田か、柳かユキだね!」
 丸井が真っ先に挙手して叫んだ。
「賛成だ」
「いーんじゃないの」
「君たち3人でよろしくお願いします」
 同級生も次々と言った。
「3人でって…どうすればいい?」
 ユキが困った顔で俺を見る。俺も困って蓮司を見た。
「では公平に……じゃんけんで」
 連司はにやりと笑うと昔のように、俺たちに向かって目配せした。3人でじゃんけんすると、ユキが勝った。
「ユキが部長だあ〜! おめでと、ユキ」
「えーっ、どうしよう?」
 丸井に抱きつかれながら、ユキは頬を真っ赤にして、俺と蓮司を交互に見た。蓮司が、
「がんばれ」
 と言ってユキの肩を叩き、「あとは副部長だ」と俺を促した。
 そんな成り行きで俺は副部長になってしまった。おかしかったのは、1年生たちに新部長と副部長を紹介する時だった。ユキと俺が何も言えないでいると、蓮司がつかつかと前に出て仕切った。
「えー、新部長の幸村君、新副部長の真田君を紹介します。部長から就任の挨拶をどうぞ」
 ユキは仔犬みたいに頭を振って、言葉に詰まりながら一生懸命挨拶した。みんなが熱烈に拍手し、俺はあらためてユキがいかに好かれているか、気づかされた。後で1年生の切原が、
「あのう、柳先輩は、何の長なんですか?」
と聞いた。
「俺は、部長秘書」
 蓮司がそう答えて笑いをとり、しばらくみんなから部長秘書と呼ばれていた。


 あんなに楽しかった日々は、もう夢の中のことみたいに遠くなってしまった。