蓮司は勉強もとてもよくできた。立海大付属中に行くって聞いて、ユキは目を丸くして感心した。
「いいなあ、蓮司、頭よくって。ぼくもいっしょの学校いきたいな」
「じゃあおいでよ。弦一郎も。3人で立海大付属に入ろうよ」
「そんなさらっと言うな」
「ユキも弦一郎も、塾かえたら。俺の通ってるとこに来なよ」
 蓮司が事もなげに言うので、家に帰って塾に行きたい、と親に頼んだら、やっと勉強する気になったな、と笑われた。電車で塾に通うのは面白かったし、ユキと蓮司と一緒に帰りにファミレスに入ったりするのも楽しかった。子供だけで入るなんてだめだよ、と言う俺たちに蓮司は例によって平然として諭した。
「4人でーす、あとでお母さんが来ます、って言えばいいんだよ」
 大したやつだな、と思った俺は、絶対こいつに負けないぞと決めた。



 中学の入試は難しかった。自分だけ不合格だったらどうしようと発表まで落ち込んですごした。あれほど弱気になったのは自分史上初めてだった。合格できて、ちょっと涙が出るほどほっとした。



 入学式の日は、桜がたくさん咲いていた。制服を着るのが得意なような、気恥ずかしいような、くすぐったい気分だった。
「弦一郎、ネクタイが変だよ?」
 親にやってもらったんだけど、電車の中でずっといじっていて格好悪くなってしまった結び目を、ユキが直してくれた。蓮司が来て、にやにや笑いながら「似合ってないな」と言った。
 立海大付属のテニス部に入ると、先輩たちにこう言われた。
「今年の1年にはお姫さまと、ナイトが2人いるな」
 いじめだな、と思って俺はいきり立った。ユキのことを女の子みたい、と言う奴には一番頭にくる。2年の先輩がユキのことを「ゆきたん」と呼んでいたので、
「そういうふざけた言い方はやめてください」
と立ち向かったら、「なんだ貴様」と小突かれたのでぶっとばしてやった。
 蓮司が飛んできて、止めに入るのかと思ったら「今のは先輩が先に手出しましたよね。俺、見てました。だよな、みんな?」と澄まして言った。大してうまくもないのに威張りくさっている先輩にうんざりだった1年生が一斉に「はーい」と声をあげたので先輩は捨て台詞を残して引き下がった。ユキは後でこそっと俺のそばへ来て、
「ごめんね、弦一郎」
 泣きそうな顔で言った。お前が謝ることじゃない、先輩が悪いんだ、と俺はぶすっとして答えた。
「弦一郎はすぐキレるんだから。俺にも最初、そうだったよな」
「知らねえよ」
「でもさ」
 蓮司は少し言いにくそうにしてから、真顔で俺に告げた。
「今日は見直した。男らしいぞ、お前」
 その言葉に、俺も奴をかなり見直した。
 蓮司は最初の中間考査で学年トップの成績だった。ユキは、かわいくて優しい、と女子から絶大な人気があった。俺はとりあえず部活をがんばることにした。2年からは相当いじめられたが、3年の先輩には、真田は根性あるな、偉いぞとほめられた。