いつだって一緒。
 誰よりも、そばにいる。
 そんな君を、なぜ、

 神様は俺から取り上げるのだろう。




 その子と出会ったのは、まだ本当に幼いとき。
 にこにこ笑って、「ねえ、ぼくと練習しない?」と言ったっけ。
 どこからこんなに、可愛らしい子が現れたんだろう。驚いて、きょろきょろ辺りを見回したら、おかしそうに声をたてて笑ったっけ。
 俺が入れたサービスを、とてもきれいに打ち返した。走るとふわふわ髪が揺れて、元気な仔犬のようだった。スマッシュを決めてみせたら、
「すごいね、弦一郎って、かっこいい!」
 憧れのまなざしで見上げられ、息が止まりそうになった。
 知らない遠くの小学校に通っていたから、日曜日に会うだけの友達だった。でも、日曜日はずっと一緒だった。スクールのレッスンが終わってからも夕方まで、公園でサッカーボールを蹴ったり、図書館の大きな建物を出たり入ったりして遊んでた。ときどきはしゃぎすぎて、大人に叱られると、ふたりで首をすくめてやり過ごしてから顔を見合わせて笑いあった。そんなことも何もかも、楽しかった、夢みたいに。
 雨の日曜日はつまらなくて、家で暴れたりしてよく怒られた。
 5年生になってしばらくして、新しい奴がスクールに入ってきた。
「柳くんって、東京から転校してきたんだって」
 ユキは爪先立って俺の耳元に告げると、俺のときと同じように「ねえ、ぼくらと練習しない?」と言いにいった。奴は目を細めてユキをじっと見て、「いいよ」と答えた。
「きみと試合したいな」
「うん! じゃあ弦一郎が審判してね」
 俺は奴がユキと俺とを軽く見比べたのに気づいていた。こっちの小さいのにだったら勝てるって、そう踏んだんだろうけど生憎だな、ユキは強いんだぞ、と思って奴をにらみつけた。奴はまるで気にも留めていないふうに「よろしく」と会釈した。それも気にくわなかった。
 そいつはユキと互角に打ち合って、小憎らしい揺さぶりをかけた。でもユキはへっちゃらで、いつも通りににこにこ笑って、走って追いついては打ち返した。合間に「ナイス!」なんて声をかけてる余裕さえあった。俺は見ていて得意だった。
「負けたよ、きみは上手いな」
 奴が大人びた様子で握手を求めると、ユキは照れて俺を指差した。
「ううん、弦一郎のほうがぼくより強いもん」
「そんなことない、ユキだって強い」
「きみたち、ダブルスなのか?」
 俺たちのことを等分に見て、少しだけどちらかというと俺に向かってそいつが聞いたので、俺は黙って首を横に振った。奴は不思議な笑みを浮かべて「ふーん」と言った。
 ユキがそいつを蓮司、と呼ぶようになったので俺もそう呼んだ。蓮司はいつもノートに何かを書いてる。ユキが横からのぞきこんで「なに書いてるの?」と尋ねると、いつもとても楽しそうに「ひみつ」と答えた。そういうとき、俺はわざと興味のないふりをした。子供だった俺には分からなかった。それが、やきもち、って気持ちだって。
 でも、蓮司はべつに、嫌な奴じゃなかった。テニスは抜群に上手いし、少し変わってるけど仲良くできると思った。俺たち3人は毎週一緒に練習した。3人だから打ち合う時はちょっと困ったけど、そういう時は連司が、
「では公平に、じゃんけんで!」
と言い、コートの真ん中で声をはりあげてじゃんけんした。