「でも、そいつは完全にノーマルなんだ…あなたみたいに、こういうすてきな胸があったら、僕のことちょっとは好きになってもらえるかもしれないのに…」
「あらあら。せつない恋なのねえ」
 アネッサは歌うように言って、僕の手を上から包んだ。僕は彼女の柔らかさに軽く驚きながら、その弾力を味わっていた。なんか倒錯的だなあ。ちゃんと男と女でやってるのに。
「可哀想ね。お姉さんがナイショで慰めてあげてもいいわ」
 彼女の琥珀色の瞳に、僕が映る。絶望に飼いならされてすっかり投げやりになった僕と唇を合わせて、彼女は僕のなけなしの理性を全部吸い取ってしまった。アネッサのキスは、外国製の口紅の匂いと味がした。僕らは安いAVみたいに馴れ馴れしく音を立ててキスを繰り返し、倒れこんでおたがいをまさぐりあい、白いソファをぎしぎし言わせた。彼女はいとも簡単に僕の操縦桿を握ってしまい、僕は彼女の雄大なバストに挑むには自分じゃあんまり格が違いすぎるなと思いつつ、好奇心にも駆られてそれに舌を這わせた。まるで、巨大な肉まんでも食べさせていただいてるみたいだ。
 子どもをあやすみたいに、
「いい子ね」
と言うアネッサの低い声が、耳に心地よかった。ところがだ。
「あーっ! この野郎、アネッサ、俺のダチを勝手に口説きやがって!」
 そこへ芝刈りを終えた桑原がどたどたと入ってきてしまった。僕のを持ったままアネッサは巻き舌で桑原に僕にはわからない言語の罵声を浴びせ、桑原も負けじと壮絶に横文字でわめきはじめる。いやはや、ノーと言えない日本人の僕としては、ふたりに挟まれて呆然とするばかりだ。
 玄関で呼び鈴が鳴った。アネッサが(このしつけの悪いくそガキめが)みたいな雰囲気の捨て台詞を残して客を出迎えに行ってしまったので、それを潮時に桑原と僕は冷蔵庫から適当な飲み物を頂戴して、バスルームに撤退した。