「小賢しいな。……いや、なかなかに君らしいじゃないか。色仕掛けに出るとは、また…大した小悪魔だ。あんな真面目そうな子を、落としたのかね」
 視線で僕をその場に縫いつけるみたいに、先生は威圧的にぎらぎらと目を光らせた。僕は自分がどんどん、抗えなくなっていくのを感じる。標本にされる蝶のように、羽を何ヶ所もピンで留められて、動けなくなる。心も、身体も。
「どうやって誑し込んだ。そうか、このお上品なお口で可愛がってやったんだな。お前はあれが得意だものな。よくもまあ、そんな卑劣なことを思いついたな? まったく芯からけだものだな、お前は」
 引き千切るような勢いでボタンを外され、放り出すように手を離されて僕はふらついた。先生は僕を床に突き落とし、爪先で僕の鼻の頭を蹴った。
「そういえば、お前の気に入りそうなおしゃぶりがあったな」
 アタッシュケースから白くて細長い箱を取り出した先生は、見せつけるように僕の前でそれを開けた。僕は思わず息を飲んだ。よくエッチなマンガに出てくる、いやらしいおもちゃの本物が入ってた。こんなに大きいなんて…。
「ほら、大好きだろう。食べていいぞ」
 先生はピンクのそれを床にへたり込んでいる僕に突きつけた。僕が凍ったようになっていると、頭のてっぺんの髪の毛をわしづかみにして仰向かせ、怒鳴りつけた。
「喰えと言ってるんだ!」
 喉にぶつかるぐらいに突っこまれて、吐きそうになる。ものすごく嫌な味。石油みたいな臭いがして、舌がぴりぴりしてきそう。全部飲みこまされそうになって、僕はさすがに悲鳴をあげて首を振り回したけど、髪の毛をつかまれたままだから逃れられない。喉の奥にぶつかるそれの刺激で、ほんとに胃液が逆流しそうで自動的に涙が出てくる。
 異物に口を塞がれたままの僕を、先生はもうあっちの世界に行っちゃった目で見下ろしている。この人は狂ってる、逆らえば僕は殺される、そして逆らわなくても殺すのとほとんど同じほど痛めつけられるんだ。床に這いつくばらされ、腰から服を引きずり下ろされた僕は口の端からよだれを垂らしながらその、化学製品の味がするピンク色の巨大なキャンディを頬張っているので精一杯だった。先生はあざ笑うように僕を眺めながら上着とベストを脱ぎ、ネクタイを緩め、そして、悠々と僕の前に腰掛けて片手で顎をつかんで上向かせた。