「そういえば、あなたのその剣、本当にどこから生えてきたの?」
「わかんない。気がついたら、こんなんなってたんッス」
「あの人になにか呪文をかけてもらったの?」
「なんにも、もらったりなんか…あ!」
 ようやく気づいて、赤い瞳はポケットの中を探りました。中から参謀閣下が額にかけていた宝石の飾りが出てきました。
「まあ……。それを彼があなたにくれたの?」
「いや、ちがうよ、預かっただけだってば。オレ、ほんと違いますって、そんなんじゃないですってば」
「あたふたするところが余計、あやしいなー♪」
「姫さまあ、もおー、カンベンしてくださいって!」
 赤い瞳は大層困って頭を掻きました。託しますから、とか言われても姫さまもそれはあなたちょっと自分勝手だろ、と思いつつ、でも確かにあの人も気の毒だしなあ、という気もして、しかしだからといって何で自分が引き留めなきゃ…と考えると、やっぱりあの人がいないとオレが負けちゃったときにどうしようもなくヤバい気がするわけで…
(ちぇっ、要するにオレ、あの人のこと、やっぱし頼りにしちゃってるわけじゃん?)
 彼はしぶしぶながら悟りました。そして、手に持った飾りの環を見つめながらつぶやきました。
「姫さま、あの人はほんのちょびっとでも、オレのことを好きだと思いますか?」
「思いますとも。この天上の門を司る一族はいずれあなたに、ここを継いでほしいと願っていますよ。私たちみんなにとって、あなたは末の弟のような存在ですから、誰もがあなたの一生懸命なところを、可愛いと思っています」
(いや、それは違う、っていうか絶対違う人が1人いる)と赤い瞳は思いましたが、まあこの際それはいいやと思い直して聞き流しました。
「じゃあ、オレが一生懸命頼んだら、あの人は留まってくれると思いますか?」
「あなたが頼むよりほか、誰にも頼めません」
 確かに姫の言う通りでした。赤い瞳は決心して姫に言いました。
「では、オレ、あの人にここにいてくれるように頼んでみます! …ところで、この妙な暗闇からどうすれば出れますか?」
「心を落ち着かせて真剣に『嘘だ』とお言いなさい。そうすれば言霊の呪縛から逃れられます」
 姫はそう答えて手を差し伸べ、やさしく赤い瞳の頬に触れました。
「ここでなら、こうしてあげられます…がんばってね」