「フン、なんだろうねまったく、ここの奴らときたら、どいつもこいつもシリアスすぎるよ。こんなの所詮、ゲームなんだから。いちいち興奮しすぎじゃないの」
「相変わらずだな、お前…」
 同僚の気性を知り抜いている魔道師は、苦りきった顔でつぶやきました。
「お前がそういうやつだということは、よく承知しているつもりだけれど…この子やレンジの真摯な気持ちというものは、そうそう軽んじるわけにもいかないと思うな」
「わかってますよ。我々だって王陛下を崇めておりますからね…だけど、なんだかむかつくんだよね、この人たちの、なんていうの? このとんでもない本気さ加減には」
 王妃は苛立ちを隠そうともせず、黒いマントを拾い上げて羽織るとひらりと舞い上がり、
「もうちょっと楽しませてくれるかと思ったのにな、まったく、つまらない」
 そう言って階段の下のほうを見にいってしまいました。黒い羽根の魔道師はその姿を見送ると、ため息をついて、友人の亡骸のそばに座り込みました。



 さて。
 言霊に胸を掴まれてしまった赤い瞳の精神内界では、何が起こっていたのでしょうか。
(きみのせいだ)という言葉の力にからめとられた赤い瞳は、まるで真っ暗な部屋に閉じ込められたように何も見えず、何も聞こえない世界に突き落とされていました。自分を押しつぶしてしまいそうな冷たくのっぺりとした暗黒が、重苦しくまわりを包んでいます。絶望感が彼の存在そのものを塗りつぶしてしまうかと思われた寸前に、心臓に鋭い痛みが走りました。
(……っ!)
 驚いて赤い瞳は両目を見開きました。暗闇の中から、まるで水面に映った像のように、美しい妖精の姫の姿が立ち現われてこちらを見つめていました。
「姫さま!!」
「だいじょうぶ。あなたは、こんなところで終わるような男ではありません」
 妖精の姫は、いまにも消えてなくなりそうな、はかない微笑みを浮かべて言いました。
「私が眠りの中であなたを護っています。さあ、勇気を出して、もう一度あの人に立ち向かってごらんなさい」
「姫さま、でも、オレは…オレが、いけなかったって。オレが黙っていれば、参謀閣下は…」
「ちがいます。あれは黒い王妃の得意な嘘ですから、心配しなくていいのですよ」
 姫はやさしく言って、手のひらを広げ、その上に小さな魔法の灯りをともしました。辺りがほんのり明るくなると、彼らから遠く離れたところに、黒い羽根の魔道師と向かい合って何かを語り合っている参謀閣下の姿が見えました。