「……オレに…執着?」
「見たでしょ。きみに死んでほしくないと言われて彼はキレたじゃないか。あんなに冷静だったのに」
(え……)
 理解できずにいる赤い瞳に、王妃は言いました。
「傷つかないでほしいんだけど、彼が負けたのは半分、きみの責任だよ。きみらは姫君のために命を賭けてるって、さっき言ったよね。でも、きみがあんなことを口走ったせいで、彼のハートは二つに引き裂かれた。姫のために死ぬと決めてたのに、きみのために生きていたい気持ちがその決意を上書きしそうになった。あのままいっていればどう考えてもハルに勝ち目はなかったけど、きみのおかげでひっくり返せたわけだ」
「そ…そんなの、関係ねえよ、オレが何言ったって、あの人がそんなのに…」
「強情な子だ。後悔させるなって彼はたしかに言ったよ、聞こえなかった?」
(そんなこと…そんなこと………あるはずない)
 頭の中に、王妃の言葉の断片が飛び散り、くるくる踊ります。いのち・を・かけてる・って……
 しぬ・と・きめてた・のに……
 言ったよね…きみのために…聞こえなかった?
「きみのせいだ」
(!!!!!)
 そのひとことで、赤い瞳の心は止まった時間の中に閉じ込められました。黒い王妃の策にはまったのです。
(あのひとが、オレのせいで)
 王妃の放った言霊の魔法力に囚われて、彼は硬直し完全に動けなくなってしまいました。黒い羽根の魔道師は、息絶えたかつての親友を見下ろしてから、不服そうに王妃を振り向きます。
「はったりにもほどがあるぞ、クイーン」
「ごめん、妬けた?」
「ありえない、レンジに限って。仮になにかあったとしても、マルチプルの秘密が欲しかっただけだ」
「……それはどうかな。ああいうクールな奴は大抵、直情型のバカには弱いよ」
 黒の王妃は言い捨てました。そのつめたい言いぐさときたら、機嫌を損ねた子供っぽさ丸出しで、さっきまでの優雅で傲岸な態度とはずいぶん感じが違いました。