(なんだと……!)
 その細腕からは想像もつかない怪力で、王妃は合わせた刃を遮二無二、ねじこもうとしました。剣自体が火でできているのですから、その破壊力たるや恐ろしいものでした。ぱちぱちと激しい火花が飛んで、炎が明々と睨み合う両者の顔を照らしました。
「つまらない意地を張るな。やろうと思えば、僕はこの炎の温度を上げてきみの剣を溶かしてしまうことだってできるんだよ」
「な、なら、早くそれをやってみろよ!」
 渾身の力をこめて持ちこたえながら、赤い瞳は叫びました。
「馬鹿にするんじゃねえ! オレだって第二冠位だ!」
 黒い王妃はそれを聞くと、刃物のように鋭い眼光を赤い瞳に向け、
「いくよ」
 ささやいた瞬間に、真っ赤だった火の剣がまばゆい黄金色に、そして刺すような白金色へと変化しました。言う通り、超高熱の炎の魔法を使ったのです。あっという間に、赤い瞳が手にしていた剣は煙を上げ、しゅう、と音を立てて融解したのみならず、鈍色の霧のようになって蒸発していきました。
 まさに、圧倒的な強さです。これほどまでに差のある相手に、挑んだこと自体が間違いであろうと言わんばかりに、黒い王妃は冷酷なまなざしで赤い瞳に一瞥をくれると、剣を納めようとしました。
しかし、
「負けるかあ!!!」
 吠えた赤い瞳の手元から、透き通るような青い輝きがほとばしりました。なんと、彼の握り締めた剣の柄から、新たな刃が生えてきたのです! それは、銀色の氷の刃でした。どうやってそんなことができたのか、信じがたい奇跡を見る目で王妃は後ずさりました。勢いよく冷気を噴き出す氷の剣は、氾濫した炎をあっという間になぎ払ってしまいました。
「まだまだ、こっからだぜ……」
 荒い息を吐きながら、赤い瞳は舌舐めずりして王妃をじっと見据えました。そうなのです。その双眸は、ついに鮮やかな血の色に変貌をとげていたのです。