「参謀閣下、オレは、どうすれば…」
「君はなにもしなくて大丈夫。俺が必ず、奴らを止める」
 魔道師は額にかけている宝石の環を外して、赤い瞳に手渡しました。
「持っていて」
「待て。お前がその戒めから解かれることを、俺は許さない」
 魔法剣士が口をはさみました。魔道師はまっすぐに同僚を見て返答しました。
「これは俺の罪を贖い、ふたたび忠誠を示すため姫によって戒められたもの。今、俺が忠誠を尽くすにはこれは邪魔になる…魔力を制限するものを身につけて戦うには、敵は強大すぎる。解ってくれ」
「お前の敵は、それほど…」
「ああ、かつての俺の相棒だからな」
 そのとき、雲のうねる空から一片の黒い羽が舞い降りてきました。魔道師はそれを掌に受け、じっと見つめました。
 死闘の予感。
 風が強まり、彼の黒髪を激しく吹き荒らしました。赤い瞳が呆然とその厳しい横顔を見ていると、魔法剣士が静かに言いました。
「信じているぞ。今こそ、お前の真の力を見せろ」
 その言葉には彼の誠があるように、赤い瞳には感じられました。ねじれた運命の鎖につながれてはいても、彼らの友情は失われたわけではないのです。きっと誰よりも友の勝利を願っている皇帝は、姫のそばに戻ってそっとその手を取り、目覚める時が来るのを見守りました。そして、魔道師は無言のまま滑るように、階段を下りてゆきました。