「なんつーか、ホント、あんまりッスね」
 赤い瞳はもう何を言ったらいいのかわかりませんでした。姫さまも可哀想だが、皇帝もまことに気の毒で、さらにこの人ときてはよく人生に絶望しないものです。
「死にたくなりませんか?」
「そりゃ、なるけどさ、すぐ死ぬのも惜しいし当てつけみたいだしなんか悔しいしなーって」
 魔道師はため息をついて言いました。
「結局あの仏頂面だけがいい目を見てるわけだしさ、俺だって結構いい線いってたと思うんだけどなあ…」
「アンタ、要するに淋しいんだ」
「口が過ぎるぞ、この××××」
「ちょっと、それもう一回言うと潰すよ!」
「やってみろよ、君のデータはこっちが握ってんだ。ふむふむ、君はお姉さんが一人いて、苦手な科目は英語、好きなタイプは明るい子がいいッス。1週間以内に河川敷でライバルと偶然出会います……そして怖い先輩に殴られます」
「いきなり水晶玉占いをするな、この薄味野郎!」



 ここまで読んで赤也はさすがに少々考えさせられた。
(この小説、なんかどうも…どっかで見たような、聞いたような話が書いてあるような…)
 ノートに几帳面な字で記されている文章は、本当にただの授業中の内職なのだろうか。ここで繰り広げられている物語は、どこでもない架空の世界のものだと思っていた、だけど、今はなぜだかとても自分に近いもののように感じる。
(この人たちはこれから、どうなっちゃうのかなあ…)
 こそこそと辺りを見回し、蓮司のかばんにそっとノートを戻すと、赤也は部室を出た。外では丸井と桑原が仲良くチョコレートを食べていた。
「てめえも食う?」
 丸井がチョコの箱を差し出したので、ひと粒つまんでから赤也は、なんとなくつぶやいてみた。
「ねえ、あのさー、部長と副部長と柳先輩って…どういう関係なの?」
 すると、年長のふたりは少し青ざめながら顔を見合わせ、丸井が答えた。
「そ、それは、口に出すと呪われる立海大付属7つの秘密のひとつなんだよ…」
「はァ? じゃあ、あとの6つは何なんスか?」
「だから、口に出すと呪われるって言ってんだろぃ!」
「なんではぐらかすんスか、教えてくださいよ!」
「世の中にはな、知らない方がいーってコトもいっぱいあんだよ!」
「お前も呪われたくなかったら、あの3人のことには関わりあいにならないほうがいいぞ…」
「なんだよ、またオレのこと子供扱いして〜!!」
 今日も怒りまくりながら練習に励む赤也を、呪いの元凶の人々が離れたところから見守っている。
「あの子がレギュラーに入ってからなんだか、活気が出たよねえ」
「うむ。まだ足りない点は多いが、練習熱心なのは良いことだ」
 幸村と真田が言い合っているそばで、蓮司はデータ帳を広げながらやけに楽しげに独りで微笑んだ。