「何か、あったんスか?」
「姫の預言を聞いたよね。君の立ち向かうべき敵は黒い王妃……そして、その王妃と王のもとにおそらく、俺の幼馴染みがいる。それがわかったからには、俺はいずれそいつと戦わなければならない」
「相手はどんな奴です?」
「同じ魔法使いだ…あいつが、変わっていないとすれば」
 遠い目をして魔道師はつぶやきました。赤い瞳は、魔道師の過去に何があったのか、知りたいと思いました。
「参謀閣下は、いつからここにおられるんですか」
「4年と2ヶ月と10日ほど前からだな」
 風が吹いて、魔道師の額にかかった不揃いな前髪をぱたぱたと煽ります。
「俺はもともと、あの川の向こうの領土の人間だ。幼いとき、竜巻に飛ばされてここへ運ばれたんだ」
「よく生きてたッスね」
「俺は守護の者の一族に拾われた。魔法使いの血統だと知れて、姫に仕えるためにお側へ召された。そのとき姫の傍らにはすでにあいつがいた。君の大嫌いな炎の魔法剣士だ。あいつもその頃は、ただの多少強い子供に過ぎなかった」
 魔道師は懐かしむように微笑みました。
「俺とあいつと姫はずっと一緒に育った。喧嘩もしたが、おたがいに信じあい助けあってた。預言者である姫が将来この門を継承し、そのときは俺とあいつが両翼に侍ることは、ずっと前からわかっていた。姫は俺たちふたりを平等に扱ったし、周りの者たちも俺とあいつとを一対に見立てようとした。ニオとヒロや、ブン太とジャッカルのようにね。だがあいつと俺はそれでは気が済まなかった。俺たちふたりがではなく、どちらかが姫と一対になるべきだと決意していた。姫はそれを知っていたと思うが、黙って見ていた」
 赤い瞳は複雑な気分になりました。
「つまり、あなたも姫が好きってことッスよね」
「お慕い申し上げているよ」
「それで、あいつと決闘したと。恋人の座を賭けて?」
「ご明察」
 この温厚そうな人物がどうやってかの皇帝を撃破したのか、赤い瞳には想像もつきませんでした。