その後。
 赤い瞳は、まだ見ぬ敵を思い描きながら、戦闘の能力を上げることに励んでいました。
 この階段を上ろうとする者を阻む。そして、自分は今いるところのもう一段上へ登る。それには炎の魔法剣士を倒さねばなりません。皇帝と呼ばれる男に対する強烈な嫉妬と羨望とが赤い瞳の心をかき乱していました。
 いったいあの男に弱点などあるのだろうか。そう思った彼はある日、階段を下りていってみました。赤毛と黒い男が仲良くおやつを食べていました。
「てめえも食う?」
 赤毛が甘いお菓子をくれたので、彼はそれをぱくつきながら尋ねました。
「ねえ、皇帝はなんで、あんなに強いんスか?」
「姫さまの愛があるからじゃねーの?」
 あまりお上品でない笑いを浮かべて赤毛は言いました。黒い男がその頭を小突いて忠告しました。
「また、そういういやらしいことを…殴られるぞ」
「誰かあの野郎に勝ったことのある人はいないんスか?」
「それは、参謀閣下だな。見たわけじゃないけど、かつて彼らが争って一度、皇帝が負けたと聞くよ」
「本当に!」
 赤い瞳は衝撃を受けました。あの覇気のかけらもない魔道師がそれでは、同僚の弱みを握っているのでしょうか。
「あの人、そんなに強いんだ」
「だって、見ただろ。お前、参謀閣下にデータを抜かれたじゃないか」
「オレらもみんなあれ、やられてんだぜ。気持ち悪いんだよな…あの人がデータ帳を開いたら、用心しな」
 そうでした。大変な弱みを握られていることを思い出して、赤い瞳はもじもじしました。
「もう帰る」
 お菓子をもらって彼はその場を後にしました。自分の守護すべき場所まで階段を上っていくと、すぐ下に魔道師が座っているのに出会いました。
「あのう……これ、食べますか」
「甘そうだね。俺、味の濃い食べ物は苦手」
 魔道師はけだるそうに手を振って答えました。赤い瞳は相手のいつになく消耗した様子を見て、気遣いました。