司祭はさんざん泣き叫んだ末にもう声を出す気力も失ってしまいました。いっそ意識も途切れてしまえばよかったのですが、激しく突き動かされるたびに走る痛みがそうさせてくれませんでした。
(ああ、だけど、この人を受け入れなくちゃいけない…それがきっと神が私に課した試練なのです)
 司祭も大分おかしくなっていますが、とにかくそう思いながらちらりと僧侶の顔を見ました。自分の与えた傷が右目の下に残っています。
(綺麗な方なのに…申し訳ないことをしました)
 氷のようだと思ったその目が、せつなげに細められ、どこか遠くを見ています。司祭は思わず言いました。
「あ、あなたはこうしていて、嬉しいのですか」
「なに?」
「こんなふうにするのが、あなたの喜びなのですか。それとも」
「なっ…へらず口を叩くな!」
 僧侶は急に激昂しました。そして、なにかが彼の琴線に触れたのでしょう。息を弾ませながら、うなだれました。
「俺はどうせ、こういうふうにしか人を愛せないんじゃ。でも構わない、愛されることなど望まない。闇の教団にあるのは支配と服従だけ。俺らはそういうふうに生まれついてる」
「あなたの命が始まったときには、違ったはずでは? きっと、ご両親も…」
「拾われっ子なんじゃ、俺は」
 すっかり気落ちした様子になってしまった僧侶はぼそぼそと言って、髪を掻き回しました。
「キサマ、なんで俺にやさしくした。すぐ追い払えばいいのに、なんでメシまでくれるんじゃ」
「そ、そんなこと言われましても……」
「みんな、猫には優しいんじゃ。そんなつもりなかったのに、猫の姿になったらみんな撫でてくれるし、可愛がってくれる…それを、心地いいと思うようになってしまった。馬鹿じゃ、俺は」
 愛されることに不慣れというのは、哀しいことです。人の情けも素直に受けとめられない僧侶に、司祭は憐れみと救ってあげたい気持ちを抱きました。