一週間後、神殿でおつとめをしていた司祭の仲間たちを、何者かが襲いました。
 肉片と脳漿が飛び散った惨劇の現場を目にするや否や、司祭は激しい怒りに燃えて敵を追い求めました。血の匂いの跡をつけて走り、いつしか深い森に分け入っていました。
(ここは……)
 夢中で、来た道も忘れています。司祭は夜空の月を見上げて時を計ろうとしました。
 その刹那、頭上の木の枝から、不吉な影が舞い降りたのです。
 司祭は無論、光の魔法を乱射しました。蒼い月夜を焦がすほどの白熱光が舞い乱れます。ところが白い術法をかいくぐり、一瞬の隙をついて敵は黒魔術の影縛りを地上の司祭に向かって放ちました。月明かりの下で、司祭は不覚にも影を縫い留められて動けなくなりました。
「闇の教団、殺すなら殺しなさい」
 背後から喉元に刃をあてがわれ、司祭は潔く観念しました。己の命運もこれまで。最後に言い残すことがあるとすれば……常に冷静な司祭も、ほんの少し感傷的になりました。
「仔猫たち……無事大きくなるとよいが」
 それを聞いた背後の敵が、ほんの少し逡巡して法力の弱まる気配を司祭は感じ取りました。思い切って刃を握った敵の腕を取り、投げ飛ばすと闇の教団の手先は、それでも受身を取ってふわりと軽く起き上がりました。
「キサマか、あのときの…」
 氷のようなその瞳。右目の下に、司祭の撃ったレーザーがつけた細い傷が走っていました。
 硬質な輝き。研ぎすまされ、感情を排したほとんど機械に近い存在であることをその目は示しています。なのになぜ、敵の息の根を断つ絶妙の機会を逃したのでしょう。そして「あのときの」とは? 司祭がその言葉を反芻するわずかな間に、氷の瞳の暗殺者は駆け出しました。
 闇の教団員が身に纏う、暗い灰色の衣をひるがえして逃げ去る敵の背中に向かって、司祭は魔法の電撃を放とうとしました、しかし、何かが心にひっかかります。呆然と見送るうちに、刺客の後姿はみるみる遠ざかり、やがて闇にまぎれてしまいました。