ある日、珍しく空が濁り、黒い雲が次々と流れてきました。
(どこかで争乱が起こっているのだな…)
 赤い瞳は新たな戦いが近づいてきていることを感じ、身震いしました。
「そういきり立つことはありません。まだ、訪問者はずっと遠くです」
 眼鏡の司祭と銀の髪の僧侶は、のんびりお茶を飲んでいました。赤い瞳は疑問に思っていたことを彼らに質問してみました。
「『愛し方というものを、わかっていて?』と問われたんです。それって、何スか?」
 僧侶がいきなり茶を噴き出しました。
「ニオ、大丈夫ですか?」
 司祭が慌てて背中を叩いてやりました。僧侶は盛大に咳き込みながら身もだえして笑い出しました。
「俺が教えてやろか。うんにゃ、逆か、ヒロが教えるんがいっかな」
「真面目にやりたまえ」
 司祭は怒っていますが、なぜか顔を赤らめています。なんだかいたたまれなくなって赤い瞳はその場を立ち去りました。
 風に流されては千切れて飛んでゆく雲を見ているうちに、赤い瞳は妖精の姫に会いたくてたまらなくなり、階段を上っていきました。たとえ触れることができなくても、見つめるだけで心は癒されます。
 ところが、門が見えてくると、中から誰かが苦しんでいるような声が聞こえるのです。
(まさか、姫さまの御身に何か!?)
 赤い瞳は駆け出しました。その声は高くなったり低くなったりして、そのうち甘い声で言葉をつむぎました。
「ねえ、早く来て……」
 それは、自分を呼んだのでしょうか。赤い瞳は勢い込んで門に走り寄ります。