「姫さま、ごきげんいかがですか?」
 階段を守護することにも慣れてくると、赤い瞳は妖精の姫とお話したくて、たびたび門のそばに行きました。普段、階段には誰も来ませんし、誰か来たとしても大抵は、下のほうで赤毛が鞭を振るったり、黒い男が槍の一突きで退治してしまいます。
 その日は魔法剣士と魔道師の姿も見当たらず、姫はひとりでぶらんこに乗っていました。彼がやってくると、姫は優しく微笑みました。
「ねえ、姫さま、オレと一緒にどこかに遊びに行きましょうよ」
「ごめんね。私は、この門から出られないのです。どうかあなたがこちらにいらしてくださいな」
 赤い瞳は「わかりました!」と門をくぐろうとしました。ところが、門の真下で目に見えない壁のようなものがきらりと光って、彼を通さないのです。
「どうして!」
 彼は地団駄を踏みました。姫は首をかしげて言いました。
「なぜだろう。あなたは守護の者で第二冠位なのに…あなたに力を及ぼすことのできるのは私と、あなたより上位の皇帝のみのはず」
「あいつだ! あの野郎がオレを、姫さまに近づけたくなくてこんなバリアを…汚ねえよ」
 赤い瞳は怒りを燃やし、吐き捨てるように言いました。姫は悲しげな顔をしました。
「絶対いつか殺す」
「戦わないで……どちらも、私の大切な騎士です」
 姫の瞳から涙がひと粒、こぼれて頬を伝いました。赤い瞳はそれを拭おうと思わず手を伸ばしましたが、透明な壁に阻まれました。悔しさに拳を震わせて彼は姫をただ見つめるしかありませんでした。そのうち姫は恥ずかしそうに笑いました。
「あなたはいまに強くなります。そうしたら、良い伴侶を得ることでしょう」
「オレが愛しいのは、姫さまだけです」
「あなたは愛し方というものを、わかっていて?」
 姫がちょっぴり悪戯っぽく言ったので、赤い瞳はどぎまぎしました。愛し方とは何でしょう。彼には見当がつきませんでした。
「急がずとも、いずれわかるでしょう」
 自分がまだ子供だと言われた気がして、彼はすごすごと門を後にしました。