「ふられちゃった」と弦一郎に告げてから、俺はようやくユキの見舞いに行った。
「蓮司、どうしてるかと思ってた……げんきだったの?」
 ユキはたどたどしく言って頬を赤らめた。病気の症状でうまく口がまわらないのだと教えてくれた。痛々しくて胸が熱くなった。
「シュークリーム食べる?」と俺は持ってきた箱を開けた。
「じゃあ、半分だけ」
 シュークリームを半分に割ってユキにあげると、指についたカスタードを不器用にぺろぺろ舐めて、俺を見上げた。俺も我慢して、甘いバニラの香りのそれを半分食べた。
「ユキ、あのときはごめん。俺、どうかしてたよ」
 俺はなるべくさりげなく聞こえるように努力して言葉を選んだ。ユキが誰を好きか俺にはちゃんと分かってる。二度とあんなことしないから、これからも友達でいよう。すると、ユキは少しぎこちないけどこの上なく愛らしい笑みを浮かべた。
「僕、好きって言われたの、はじめてだった。うれしかったよ」
「俺でも?」
「うん」
 なんてことだろう。俺は3年と8ヶ月ぶりくらいに泣きそうになった。でも、もう小学5年生じゃないから泣くのは恥ずかしい。
「俺、キス下手だよな。はじめてだったから緊張しちゃった」
 照れ隠しにそう言うと、ユキは驚いたように、はじめてだったの?と聞き返した。
「当然だろ、聞き捨てならないな、俺、遊んでるっぽく見える?」
「う、うーん……」
 ユキも結構ひどい。俺はシュークリームの分、お返しを要求することにした。
 もう決して二度としないから、もういちどだけ、思い出にきみに触れさせて。
 俺の愛しいきみ。そして、きみの愛しいあいつ。俺は中庸を選択して、定規で測ったように等しくする。きみと俺との距離を、そしてあいつと俺との距離を。
 そうして俺が傾かなければ、きれいな二等辺三角形が描ける。


 要領がいい俺は、そんな悲しい思い出も割と上手に乗り切ったふりを続けている。