ユキと同じ学校に進学すると、どうしても弦一郎がセットでついてきてしまうのは、致し方ないところだ。
 しかし部活まで一緒になることをすっかり忘れていた。うかつだったな、と俺は思った。俺はテニス以外に楽しめることが沢山あるし、違う部に入ってもよかった。だがテニス部に入らないと、ユキと遊べなくなる。中学の部活動には実に馬鹿馬鹿しいヒエラルキーがあって、学年という無意味な階級に従属しないといけない。普通に廊下を歩いている時にまで年長者に挨拶を強要される部は俺の好みではなかった。
 学年が下のときにいじめられるから、自分が上になったときにその報復に出るわけで、それは無限連鎖だ。本当に馬鹿馬鹿しい。俺はひそかに、そのうち自分がテニス部の覇権を握って改革してやろうと考えた。俺は要領がいいので適当にうまくやっていたが、弦一郎は態度が悪いので明らかに先輩に目をつけられていた。
 それから、信じがたいことに、ユキも目をつけられていた。あれは反動形成、いわゆる「好きな子ほどいじめたい」というやつだと思うが、女子部はこっちじゃないよとか、スコートはかないの?とかしょっちゅうそんな、知能指数の低いいじめを受けていた。それを見て俺と弦一郎は途端に一致協力する気になった。共通の敵があれば人間は利害を捨てて手を組むものだ。
「今年の1年にはお姫さまと、ナイトが2人いるな」
 多少知的な先輩がそう揶揄した。言い得て妙だ。俺はへらへらした態度を作って立ち去るふりをした。だが姫のいま一人のナイトのほうは、スイッチオン状態になったのが顔でわかった。これはヤバい、血を見るぞと俺は背筋が凍った。案の定弦一郎はその数分後に先輩をぶちのめした。
 1年生が2年生を殴るなんて、体育系の部にあっては言語道断の所業だ。なんという度し難いバカ…とは思ったが、俺は実にすかっとした。こいつを認めてやってもいい。いや、認めざるを得ない。俺がこいつの持たない技を持っている分、弦一郎は俺にはできないことができる。
 お前を見直した、と俺は言ってやった。奴はまんざらではなさそうな顔をした。