「ね、もうちょっと、寄って」
「ああ……」
「もっと寄るの」
「このくらいでいいだろう?」
「だめ、寄らないとフレームに入らないじゃない」
 機械がはしゃいだ声で「トルヨ!」と言っている。さっきからずっと挙動不審な彼氏を幸村は仕方なく、強引に腰を抱き寄せて近づかせた。
「何するんだ!」
「だって、入らないんだってば。ほら見て、あの枠の中に納まらないとだめなの」
「……そうか」
「きみ、背が高すぎるよ。ちょっと頭さげて」
「うるさいな…」
「あ、そうそう、そのくらい。ねえ、もう少し楽しそうな顔して」
「楽しくないからできない」
「もう……」
 幸村はさすがに機嫌を損ねはじめた。この人はなんでここまで意固地というかノリが悪いというか、わかっちゃいるけどマイペースなんだろう。こいつとつきあってるとこの先一生こうだろうというのが容易に予想できる。たまに、丸井とか仁王とかとつきあったら楽しかったのにな、と思っちゃうことがある。桑原や柳生でもきっと優しくしてくれると思うし、切原も甘えんぼだけど可愛いし、柳には結構真剣に浮気しちゃおうかなと思いさえするのだが、きっと真田をあしらうのがめんどくさいのでまともに相手してくれないだろう。もしかして自分はわりと不幸なのかもという気がしてきた。周りはイケメンやかわいこちゃんやいい奴だらけなのによりによってこんなのと……。
 膨れたまま画面をにらんでいると、真田がおずおずと口を開いた。
「笑えよ?」
「楽しくないもん」
「そんな顔して写真に写ったら金がもったいないだろう」
「そう思うなら、きみもそんなつまんなさそうな顔しないでよ…どうせ、つまんないんだろうけど。僕と写真撮っても」
「そ、そんなことはないぞ」
「きみって僕のこと、好きじゃないんだね、きっと」
「!」
 真田が血の気を失って絶句した。コートでは死んでも見せない弱りきった顔になって幸村を振り向くと、懇願するようにふるふると首を横に振った。
「どうしてそんな事を…」
「だって、つめたいよ」
 そうつぶやいてうつむいてしまった幸村を見つめて、真田は激しい混乱状態に陥り、窒息寸前の金魚みたいに口をぱくぱくさせた後、やっとのことで言った。
「す、好き…じゃなくはない」
「二重否定かよ」
 すごくちっちゃい声で幸村は毒づいたが幸い、真田には聞こえなかった。
「……すまなかった」
「いいよ、もう」
「俺が悪かったから…頼むから、機嫌を直してくれ」
「なら、ちゃんと寄ってにっこりして撮ろうね」
 滅多にない機会を逃したくないので幸村は速やかに機嫌を直して、画面に向かって嬉しそうにピースサインをし、さらにここぞとばかりに好きなだけ腕を組んだり抱きついたりぺたぺたしたりして暴虐の限りを尽くした。
「真田、顔がひきつってるよ……」
「だ、だってな、だからその、ほら、自分に向かってそんな嬉しそうににこにこできるか、馬鹿馬鹿しい!」
「しょうがないなあ…じゃあ、こっち向いて」
 彼氏の手を引っ張ると、幸村は不意打ちでキスを喰らわせた。
「・…………」
 口うるさい恋人が硬直したのをいいことに、さっさと機械を操作してプリントアウトしてしまうと、ようやく硬直から立ち直った真田に幸村は天使の微笑みを向けた。
「すっごくすごーく、うれしい。ありがとう」
 すると、完全に頭に血が上った真田がケダモノと化して襲いかかってきたので、お若いお二人は情欲の波に翻弄されるままにくちづけに我を忘れてしまってそのまま、プリクラ機の中の時間は止まってしまうのであった。


 そして、結束の固い立海大付属の残りのメンバーは6時を過ぎたのに帰るに帰れずげんなりしながら、あの人たちときたら初プリクラでいきなりちゅープリですかい…という詠嘆を繰り返すしかないわけであった。




Special Thanks to 小崎たろさま(ハルタチヌ

すてきなおまけ