さて。
 統一された意思のもとに数の力で真田をゲーセンにひきずりこんだ一同は、あとはお若いお二人にまかせたとばかりにさっさと各々の好みのゲームに走った。幸村に同情する気持ちは大いにあるのだが、これ以上係わりあいになりたくない気持ちが大幅にそれに勝るのである。そして、取り残されたお若い二名は、しばらくの間ぎこちなく顔を見合わせていた。
「こういうところに来るの、真田は初めて?」
 幸村は精一杯にこにこしながら尋ねた。
「当たり前だ。見つかったら補導されるだろう」
「大丈夫だよ、6時までは制服でいても全然平気だから」
 あまりにもズレた彼氏を持っているともう、大概のことは大して気にならない。全てを包み込んで許す大らかな大地母神のような心境になれるものである。幸村はもともと細かいことに頓着しない性質だし、真田の大幅にズレた所をこそ愛しいと思っていたので、一緒にプリクラを撮ったことがなくても、ましてや、プリクラの何たるかを彼が理解していなくても、気にするわけではまったくない。むしろ、世間知らずが微笑ましく好ましいとさえ思えた。
 ただ、確かに柳の言う通り、彼とつきあっていることの記念みたいなものを残したことがないのに気づいた。学校と部活でずっと一緒にいるけど、ふたりだけですごすことがほとんどない。そのうち、暇になったらどこかへ遊びに行こうなんて話してはいるが、いつになるのかわからない。まるで社宅に住む都合で入籍だけして、挙式と新婚旅行を後回しにしたカップルみたいだ。
 一度くらい、思い出を作りたいと願ってもかまわないだろう。
 仏頂面で騒々しい店内を見回している彼氏の腕をちょんちょん、とつついて、あっち、と幸村は指差した。真田はこの上もなく不審そうな顔をしながらついてきた。
「なんだ、このテントは」
「あのね、この中でさっきの写真が撮れるの。入ってみない?」
「なんで俺がそんなことしなきゃならないんだ」
「僕が一緒に写真撮りたいから、じゃ、だめ?」
 真田は自分の愛すべき恋人、大切な宝物である幸村をじっと見つめた。中身が意外にしっかりしていることは先刻承知していても、見た目と態度がどうにもふわふわ、ほんわかしているためにどうしても、危なっかしくて護ってやらねばならないように感じてしまう。大抵の時は機嫌よくにこにこしているから、たまに悲しそうだったり、淋しそうだったり、ほんの少しだけ拗ねているように見えるときには、心が揺れる。
 それがもしかして、自分のせいなのかと疑うからだ。両想い、という幸福の裏には常にそういう不安がつきまとうことに気づいてから、自分はこれでいいのか、と悩むことばかりが増えた。
「一緒に写真を撮ったら、嬉しいのか?」
「うん! すっごくすごーく嬉しい」
 輝くような笑顔で幸村は答えた。そんなに嬉しいなら、叶えてやらねばなるまい、と真田は考え、意を決してその大変怪しいテントに入った。
中には怪しい光線を発している機械が置かれている。真田は警戒心丸出しでその機械を眺めた。一方幸村は慣れた様子で中を見回し、背景のカーテンをとっかえひっかえして選びはじめた。
(いったい……)
 一人でしゃべっている機械に真田は疑惑のまなざしを向けずにはいられなかった。機械の画面には仁王のお気に入りの胡散臭い白い猫に似た猫やらうさぎやらが現れて何事かをまくし立てている。なにか、こう、耐え難く邪悪な気配を感じる。人類の文明が長い間かかって到達した結果がこのありさまとは考えたくない。決して懐古趣味ではないし、人並に現代的な生活を送ってはいるが、とにかく娯楽や必要以上の装飾といったものを著しく嫌悪する真田にとって、ファンシーという価値観はむしろ打破すべき憎悪の対象であった。
 しかし、恋人が喜ぶならそれも敢えて受け入れねばなるまい。真田は小さなため息をつき、嬉しそうに財布を出している幸村に尋ねた。
「で、どこにカメラメンがいるんだ?」
「・・・・・・」
 綺麗な形の両目を最大限に大きくして、幸村は彼氏を見上げた。もしかしてひょっとして万に一つの可能性として、今のはツッコミを返してあげたほうがいい高度にテクニカルなボケだったのかな、という考えが胸をよぎって5秒間ほど検討された。
……そんなわけないじゃないか。
「あのね、真田、これはね……ふふふ……くー」
 超人的な努力によって幸村は返答を試みたが、途中で断念した。しゃがみこんで狂ったように笑い出した幸村の声を実は外で様子をうかがっていた切原と柳のコンビが聞きつけて何事かと青ざめているのだったが、そんなこととは露知らぬ真田は真剣に、幸村がどうかしてしまったのではないかと焦りまくるのであった。