「そうです。それで丸く納まってみんなで駅伝中継を見てると、玄関で『ピンポーン』が鳴ってですね」
「……! まさか」
「ぴんぽーん。そのまさかです」
「参謀まで」
「はい。丸井君は下の娘さんなので柳君が長女で、私の義理の姉さんにあたるんですね。それでご主人の切原君と」
「ごしゅじん?!」
「お子さんを連れて」
「お子!?」
「ええ。なんだか双子の男の子さんと女の子さんでした。それが面白くて、男の子は髪の毛だけ切原君のくせっ毛で、顔は柳君にそっくりなんですが、女の子は顔は切原君で、髪の毛がさらさらなんです、柳君みたいに」
「誰が、どこから産んだんじゃ…2人も」
「まったくです。それで柳君ときたら『正月はうちでのんびりしたかったんだけど、弦一郎が孫の顔見せに来いってうるさいから』って言うんです、あの仏頂面で」
「言いそうじゃ」
「切原君も、真田君にはあまり気に入られてないみたいなんですけど、彼はほら、人なつこいじゃないですか。だから『まぁまぁお義父さん、まず一杯』とか言っちゃって適当に丸め込んでましたよ。ちゃっかりしてましたねえ、やっぱり」
「にしても、ジャッカルが可哀想じゃ」
「はい…彼は、柳君たちのお子さんの面倒を見てました。男の子は大人しくてお利口なんですが、女の子のほうがすごいおてんばさんで」
「赤也に似てるほうか」
「そうそう。桑原君の頭をぺしぺし叩いて喜んでました」
「親子揃って、あいつらは」
「ええ、なんともお気の毒でした。幸村君と丸井君と柳君はおせち料理をつつきながら旦那の悪口で盛り上がってるし」
「しかし、凄い世界…で、おい、お前さんはそこでどうしてるんじゃ?」
 俺が思い出して聞くと、柳生はちょっと口ごもって目をぱちぱちさせた。
「はい…私は、男のお子さんのほうを面倒みて、ねんねさせてたんですが、そしたら柳君が来て『ごめんね、今日は俺達が家のことをやるから、たまには夫婦水入らずで外で遊んでおいでよ』って言ってくれたので」
「ああ、なるほど、実の娘だから。たまに帰省したら、嫁にも多少気を遣ってくれたっちゅうわけか」
「そう…いうことですかね」
 まだ言いにくそうにしている。俺は、笑いを堪えながら言ってみた。
「したら、俺らはそのあと、どこへ遊びに行くんじゃ?」
「え? ……よく、判りましたね」
「判らいでか、奥さん」と俺が頬をつつくと、奴は赤くなって「すみませんね、夢とはいえ、貴方を巻き込んで」とつぶやいたけど、巻き込まれてなかったら俺も困るっちゃね。
「じゃが、なんとも…『犬神家』ばりに恐ろしげな家じゃの…そんなの、柳と赤也にさっさと継がせて、俺らはどっか行って好きに暮らさんか?」
「それがいいですねえ。でも、できるかどうかは、貴方の甲斐性次第ですよ?」
 そう答えてあいつは優しくにっこりした。今日ならまだ、財布の中にお年玉がたんまりあるんで、おごってやるぜと言ったら、
「ダメですよ、どっか行って好きに暮らすのなら、お金はあるうちに大事に貯金しておかないと」
って文句言いながらついてきた。そいえば、俺らふたりの間には子供はいないんか?って聞いてみたら、
「アナタね、誰が、どこから産むんですか!」
って怒られちまった。新年初デートの前に初怒られだ。ま、お義父さんに怒られるよか、ずっとええけどな。
 ……ちゃった…アレ、俺の場合は義理パパやのうて実親じゃ! げー。